商業ギルド 1
王子が王都に帰っていってから、俺とネノとメルは店づくりの続きを再開した。そして一週間ほど経つ頃には、予定通りの店が出来上がっていた。
「一通りできたな」
「うん」
「後は食堂用の食材とかは集めにいかないとか」
「うん。……あと、お店やるなら、商業ギルドで商人登録したほうがいい」
「ああ、そういえばそうだな。この街で店をやるなら登録が必要か」
「うん」
「店の名前も決めないと」
「うん。それも。あとは、給仕服とか」
「ネノの給仕服かぁ、絶対可愛いだろうな」
「ふふ、レオが可愛い、言ってくれるの嬉しい」
「だって俺のネノは可愛いから。俺にとっては他の誰よりも可愛い」
「レオも、私にとっては、誰よりもかっこいい」
俺とネノは、宿の中を見て回りながらそんな会話を交わす。ネノにかっこいいと言われるとやっぱり嬉しい。いつまでもネノにかっこいいって言われる俺でいたいと、そう思うからこそ俺は何でも頑張ろうと思うんだ。
ネノに好かれているからって、自惚れて頑張る事をやめたらネノに愛想をつかされてしまう気もするし。何よりネノにふさわしい俺でいたいっていうのもある。
隣にいたネノを抱き寄せる。ネノは俺にされるがままで、大人しく俺の腕の中におさまる。こうしてぎゅっと抱きしめるのも好きだ。ネノは丁度抱きしめやすいサイズで、すっぽりとおさまるのだ。ネノは俺の胸に顔を押し付けて頬を緩めている。ああ、可愛い。
俺の前では表情豊かで、これだけ無防備なネノ。本当、俺はネノの事が可愛くて仕方がない。
『レオ様、ネノ様――って、またいちゃいちゃしてる!! そんなにくっついてあつくないの!? 不備がないか確認するって言ってたのに、何でいちゃいちゃしてるの!?』
竜の姿で翼を羽ばたかせてやってきたメルは、俺達を見て声をあげた。
「メルも、嫁が出来たら分かるぞ。自分の嫁は、世界で一番可愛くて愛しいからな」
『よ、嫁とか、僕まだ成体じゃないから!! 番とか作るのは、成体になってからだからね!? ネノ様もレオ様の言葉ににこにこしてるし!! 今から出かけるんでしょ?』
作り終えた店内を確認してから、やらなければならないことをやってしまおうと考えていたのだった。
今の所、作った家具や魔法具に不備はなかった。あとは細かい所の調整をしたり、商業ギルドで登録をしたりするだけだ。生まれ育った村には商業ギルドとかなかったし、ギルドに登録するのは初めてだ。
「ネノ、メルも煩いし行こうか」
「うん」
『煩いしって、ひどい、レオ様!!』
「はいはい。メル、外行くから一旦、人型になって。竜の姿だと余計目立つ」
メルは俺の言葉に従って、人の姿に体を変化させた。
それから、俺達は商業ギルドに向かう事にした。
「というか、レオ様とネノ様、何で商業ギルドには登録するのに冒険者ギルドには登録しないの?」
「冒険者ギルドに登録する必要はないだろ。俺もネノも冒険者をやるつもりはないし。元々から店をやろうと決めてたしな」
「冒険者、興味ない。お店、楽しそう。レオと夫婦でやる宿、有名にする」
俺とネノは手を繋いでいる。メルはネノの隣を歩いている。相変わらず、ネノもメルも周りから視線を向けられていた。それにしても人型になれるドラゴンって、全員が全員メルのように見目麗しいのだろうか。少しだけ気になった。メルの母親の所に行けたら人型になった姿見せてもらおうかな。
「商業をやるなら商業ギルドで登録していたほうが色々便利なんだよ。売上や実績で商業ギルドの中でランクを上げる事も出来るし、商業ギルドで発行している雑誌に名前を載せる事も出来る。俺達が行きたい場所に店も持っていくつもりだけど、お遊びでやるつもりはないからな。やるからには徹底的に、どうせならだれもが知っている宿にしたほうが面白いし。ネノも言っていたけど、夫婦でやる宿として有名になるのもいいなと思ってる」
商業ギルドに登録をすれば、メリットとデメリットがある。メリットは商業ギルドに登録をして、ランクを上げていくことで、店に対する信頼が上がる。ランクの高い宿に出来れば、それだけ客からしてみれば来てみたい宿という事になる。商業ギルドで発行している雑誌に名前を載せる事も出来るし、お店で割引がきいたり、利点がある。デメリットとしては、売上の一部を渡さなければいけないことや商業ギルドのルールに従わなければならなかったりがある。
店をやっているものはほとんどが商業ギルドに登録をする。行商人とかも。行商の最中に荷物が失われた場合の補填などもしてくれるから。商業ギルドに登録をしていない商人は大体が後ろ暗い商売をやっている所だったりする。
「私とレオ、有名になる。メルは、マスコット」
「マ、マスコット!? なんなの、それ。僕、一生懸命やるよ!?」
「小さい子が、一生懸命。きっと、メルは可愛がられる」
ネノはメルがマスコット的な立場になりそうなどと口にしていた。メルがやってきたお客さんに可愛がられている姿は容易に想像が出来た。
「それ、僕、役に立てるって事?」
「うん。メル目当ての人もきそう」
「僕目当て?」
「人の姿のメル、可愛い顔してるから」
「もー。僕は雄だって言ってるじゃん!!」
そうはいうものの、メルが可愛い顔をしているのは事実である。多分、宿をはじめてメルが給仕などの手伝いをしてると知ったら今もメルに熱い視線を向けている連中はやってくることだろう。
そんなことを話しながら歩いていれば、商業ギルドに到着した。




