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王子 5

「むっ、変な人間、結構やるね! でも負けないもんね、えいっ」

「なっ、貴様、子供の癖にそれほどの魔法を使うなんてっ」

「ふん! さっさと倒れちゃいな!!」

 メルとテディは魔法対戦を繰り広げている。魔法以外をメルが使っていないのは、人間であるテディを殺さないようにするためだろう。幾ら、テディが実力者だとしても、ドラゴンのメルを相手するのは厳しいだろうし。

 それにしても、メルとテディは案外、似ている気がする。

「あ、メルの魔法、第二王子はじいた」

「魔法の腕結構あるよな」

「まぁ、一応、『魔王』討伐のメンバーだし」

 のんびりと二人で見守っていたら、テディがメルの魔法を受けて膝をついた。

「ふんっ、僕の勝ち!! ねぇ、レオ様、ネノ様、見てた!? 僕、勝ったよ!!」

 メルは俺達の方を向いて、それはもう嬉しそうに頬を緩めていた。無邪気に喜んでいるメルをよそに、見学していた騎士達は「テディ様が子供に負けた!?」「あの子供は何なんだ」とか騒いでいる。

 子供の姿をしているメルにやられてしまった事実にテディはしばらく茫然としていたようだが、すぐに正気を取り戻した。正気を取り戻したテディは立ち上がるとメルに詰め寄った。

「なんだ、貴様―—メルと言ったか、子供だというのにそれだけ魔法が使えるとはどういう事だ!?」

「うわっ、変な人間、急に近づいてくるな!!」

「変な人間などと呼ぶな。俺はテディだ。俺に勝てる子供など面白い。なぁ、どんな風に鍛錬を積んだらあれだけ魔法が使えるんだ!?」

 勢いよく近づかれて、メルは少し怯んだように情けない表情を浮かべている。よく考えればメルって基本的に俺とネノ以外の人間と深く関わった事もないし、こんな風に勢いよく近づかれて驚いてしまったのだろう。

 キラキラした目でメルに迫るテディを前に、メルは逃亡を決意したらしい。勢いよく走りだし俺の背後に回ると、俺の背に隠れながらテディを威嚇する。

「へ、変な人間、急に近づいてこないでよ!! なんなの、お前、本当に変だよ!!」

「変な人間ではなく、テディと呼ぶが良い!!」

「第二王子、メル、虐める、駄目」

 テディが暑苦しい勢いのままにメルに迫っているので、思わずネノが止めていた。

 それにしてもテディはおかしな人間だと思ってならない。

「ネノフィラーよ、俺は虐めなどというかっこ悪いことはしない。それより、メルはなんなのだ? こんなに幼いのにこれだけ強いなどと……っ」

「メルは私達の、弟みたいなもの」

 ドラゴンなどと口にすれば、テディが騒いでめんどくさいとでも思ったのかネノはただそんな風に口にした。

「ネノフィラーとレオニードの弟みたいなものだと! それはなんと面白い。あと、レオニードよ、レオニードについて教えてくれ!! もっと語ろうではないか」

 あ、こっちにまた興味が戻ってきた。なんて考えていたら、ぐぅうううううという腹の音が聞こえてきた。その音が響いた後、瞬時にテディの顔が赤く染まる。どうやらテディはお腹がすいているようだ。

「お、俺の音などではない。俺では断じてないのだからな!!」

 何故、バレバレの嘘をつくのかは分からない。ごまかしたいのかもしれない。

「テディ、何かごはん食べるか?」

「なんだ、用意してくれるのか!?」

 俺が提案すれば、テディは目を輝かせた。王子なんて立場であるのに、簡単に食事を人に用意させていいのだろうかと少し呆れた。ネノは俺の考えている事が分かったのか、「第二王子、毒とかの耐性強いみたい」と言っていた。『魔王』退治の旅の間も、毒見とかせずにバクバクなんでも食べていたらしい。

「レオ様、こんなのに食事用意するの!?」

「まぁ、腹が減ってるみたいだからな」

 ネノと結婚するとか言ってはいたが、ただちょっと頭が弱いだけで悪い奴ではないだろう。それに『魔王』退治の間のネノの事を本人以外から聞くのもいいかもしれないと思ったから。

 あと、丁度食事を取ろうとしたタイミングでテディたちはやってきたから俺もお腹がすいている。この状態で街に繰り出しても目立って面倒だと思った。

 とはいえ、家に入れる気はしなかったので作成途中の宿の中へと案内する。ついでにテディについてきた数名の騎士達も一緒に入れた。そのあと、また魔法でこの場を隔離する。

「おおっ、この建物はなんなのだ!?」

「宿やろうと思って作成中。いいから座れ」

 宿の中へと足を踏み入れて目を輝かせるテディにそう言えば、大人しくテディは椅子に腰かけた。

 メルも「レオ様の料理!」とにこにこしながらテディの真正面に腰かけているし。さっきまでメルは驚いて距離を置いていたのだが、もうそんな事実は忘れたと言わんばかりに近くに座っている。騎士達も恐る恐る腰かけ、「お世話になります」と口にしていた。

 《時空魔法》で材料を取り出してから、作ったのは簡単な野菜炒めや唐揚げだ。米はそこまでの量の手持ちがないので、パンを焼いた。

 昼食づくりはネノも手伝ってくれた。こうやってネノと一緒にキッチンに立てると何だか夫婦って感じをより一層実感して、嬉しくなった。

 食事を作っている間に、待ちきれないテディの腹がまた鳴ったりしていた。メルに「またお腹なってるしー」とからかわれていた。食事を作っている間に、メルとテディは何だか仲良くなったようだ。

 食事を出せば、テディとメルは、喜んでどんどん口に含んで言っていた。とはいえ、テディは流石王子と言うべきか、食事のマナーはとても綺麗だった。

「レオニード、美味しい料理も作れて、強いとか、凄いな!!」

「ふふんっ。テディ、レオ様は凄いんだよ!!」

 なぜかまたテディの発言にメルが自慢げだった。ネノも「私のレオ、凄い」とにこにこしていた。俺の事を口にしてにこにこしているネノは本当に可愛い。

 

 食事を取って、しばらく色んな話をした。『魔王』退治の旅におけるネノについても聞いた。その後、テディは「宿をするのだなっ。ではまた食べにくるぞ。レオニードの料理はおいしかった!」と口にして騎士達を連れて帰っていったのだった。





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