王子 2
「第二王子、何の用?」
「ネノフィラーよ、テディでいいと言っているだろう!!」
第二王子はネノに向かって、満面の笑みで話しかけている。なんとも温度差が激しい。ネノは名前でさえ呼んでいないので、第二王子には大して興味さえないのだろう。何という一方通行。元々ネノが他の男に目移りするはずはないと心配はしていなかったけど、この様子を見ると余計に安心する。
ネノは面倒そうな目を第二王子に向けている。そんなネノにキラキラした目を向けている第二王子。
「何で、第二王子、名前で呼ばなきゃ? というか、何しに来たの?」
「我が花嫁を迎えに来たのだよ。はははははっ……げほっ」
花嫁を迎えに来たなどと言って、高笑いをしていた第二王子は急にむせて苦しそうにしている。うーん、中々変な男なのかもしれない。
「テディ様! 『勇者』様はテディ様の花嫁にはならないと言っていたとちゃんと告げたでしょう! 何を花嫁にする気満々なのですか!」
「というか、大丈夫ですか? わざわざグリフォンに乗って直行なんてするから、そんなに顔色悪いんですよ!」
周りの騎士達はちゃんとネノが第二王子の花嫁にならないことは告げているようだ。というか、来るの速いなと思っていたらグリフォンに乗って直行してきたのか。まぁ、王族なら私用で使えるような魔物がいてもおかしくはないか。
「何を言う。ネノフィラーは我が花嫁に……うえっ」
……グリフォンで直行してきて、少し酔っているようだ。吐き出しそうになっている第二王子に近くにいた騎士が慌てて紙袋を渡している。
ネノが面倒そうな目を相変わらず向けている。メルは「殺す?」とか物騒な事を呟いていた。許可出したらメルは躊躇わずに殺してしまいそうだ。とりあえず王族を殺すと面倒そうなので、メルを止めておく。
「第二王子、私は第二王子の奥さんならない。何度も言った。私、旦那さんいる」
「旦那? どこにそんな男が」
「ここに」
ネノが「はぁ」とため息を吐いて、俺の手を取った。そこでようやく第二王子は俺を視界に留める。……というか、ずっと俺ネノのすぐ隣にいたのだが、第二王子はネノしか見ていなかったようで俺の事を認識していなかったようだ。
ネノが俺の腕に手を絡めて、べたっとくっつく。うん、可愛い。
「その男が旦那だと? 冗談だろう? 『勇者』であるネノフィラーにはそんな何処にでもいる男などふさわしいわけがない! 『勇者』にふさわしいのは俺のように血筋も強さも美しさもすべて備え付けているものなのだ!」
うお、凄い自信満々に言い切った。この第二王子、どれだけ自分自身に対する勝算にあふれているのだろうか。正直、自画自賛が激しくてこんな人間を初めて見たから驚いた。
「レオのがかっこいい」
「なぬっ?」
「レオは世界一かっこいい。第二王子と比べるまでもない」
むっとした顔をしてそう言い切ったネノがあまりにも可愛くて、思わず頬が緩む。好いている相手にかっこいいと言われると嬉しくてたまらなくなるのも当然だろう。
「ネノも、可愛い」
「……レオ」
「世界で一番かわいい。俺のお嫁さん」
「……嬉しい」
あまりにも可愛いから、見つめあってそんな会話をしてしまう。じーっと見つめてくるネノは口づけを待っているように見えた。本当、可愛い。
普段、あまり表情を変えないネノの熱っぽい瞳は俺をときめかせる。
思わず口づけを落とそうとしていれば、
「レオ様もネノ様も、何キスしようとしてるの!? 周りの目気にしようよ!!」
「なななななっ、ひ、人前で口づけなんぞ、破廉恥な!!」
メルと第二王子に叫ばれた。
というか、第二王子、顔が赤かったりするけれどキスとかもしかしたらした事ないのだろうか? 異性の経験がないのかもしれない。
「もー、隙あらばちゅっちゅって、そういうのは二人の時にやればいいんだよ!! この変な人間の言う通り、破廉恥だよ!!」
「お、俺が変な人間だと!?」
「変な人間だよ!! ネノ様はレオ様とラブラブなのに、花嫁にするとか馬鹿な事言っているし、妙に自信満々だし!!」
「なんだとっ。!? 貴様、子供だからといって、言っていい事と悪い事があるのだぞ! 俺が誰よりも素晴らしいのは世界の常識だろうが!!」
「ふんっ。ネノ様とレオ様を困らせる変な人間とか、僕、嫌いだもんねー! それにレオ様の方が凄いんだから!!」
「なんだと!? 何を言う。この俺より素晴らしい人間など早々居るはずがなかろう!!」
「レオ様の方が絶対、変な人間よりも強いもん!! レオ様はネノ様と一緒で訳の分からない事ばかりやってるし、普通なんかじゃ全然ないんだからね!!」
「なんだと!? この俺より、その男が強いだと!?」
「強いに決まってるじゃん! だって、レオ様だよ?」
俺とネノの事そっちのけで、メルと第二王子が言い争いを始めていた。メルが人間の姿になっているからか、第二王子はメルがドラゴンだと気づいてないようだ。
言い争いをしていた第二王子は、ものすごい形相でこちらを見る。
「ええい、そこまで言うなら俺と戦え!! 俺の方が強いという事を証明してみせよう!!」
そして、そんな風に叫ぶのであった。




