魔女の娘と共に街を歩く ⑭
「お母さんからの手紙?」
レモニーフィアの元へ手紙を持っていくと、不思議そうな顔をされた。
まさかそんなものが残されているなどと思ってもいなかったのだろう。
それでいて何処かおそるおそるな様子なのは、何が書かれているのだろうかと不安もあるのかもしれない。
……わざわざこんな街中に残している手紙。それはきっとレモニーフィアに必ず届けたいと思っているものではきっとなくて。
こうして手紙を読むことになれば、魔女の秘密を暴くことになるのではないかとかそういうことをレモニーフィアは考えているのかもしれなかった。
「レモニーフィア、ちょっと読んでみたら? それで嫌なこと書かれていたら、やめるといい」
ネノがそう口にすると、レモニーフィアはこくりと頷く。
それから静かに手紙を読み始めるレモニーフィア。みるみる表情が変わっていく。
……何が書かれているんだろう? きっと重要なことなんだろうなというのは想像がつく。俺の両親はそういうものを残してはいなかったけれど、手紙などがあったら同じように表情をころころ変えながら読んでいたのかな。なんて、そんな想像をする。
俺とネノにいつか子供が出来た時、その子が将来困らないようにはしていきたい。出来れば俺はおじいちゃんになるまで長生きしたいけれど。きっとネノならばおばあちゃんになっても可愛いだろうし、そういうネノと一緒にのんびり出来ればきっと幸せだろうとそう思った。
「いえ、大丈夫です。少しびっくりするようなことが書かれていたので……」
レモニーフィアはそう言って、そのまま手紙を読んでいく。
本当に何が書かれているんだろうか。最期まで読んでいるみたいだけど。
「差し支えなければ何が書かれていたか聞いてもいいか?」
手紙を読み終えたレモニーフィアに俺はそう問いかける。そうすればレモニーフィアは意を決したように言った。
「此処に書かれていたのは私の血縁上の父親に関することになります。私の父親の名前が書いてあって……」
どこか落ち着かない様子でそう告げるのは、父親の情報が此処で出てくると思っていなかったのだろう。
「そうなのか。どんなことが?」
「えっと、私の血縁上の父親、人間だったみたいなのですけれど。どうやらお母さんの手紙によるとこのあたりの街を治めている領主の家系だって言ってて。この手紙が書かれた日付を見た限り、もしかしたらまだ生きているかもって……」
レモニーフィアはそう言いながら、手紙に視線を落としている。
魔女はいつ手紙を書いたかもきちんと書いてくれていたらしい。それにしてもレモニーフィアの言い回しが気になる。
「レモニーフィア、まだ若い。見た目通りの年齢だよね? なら、父親生きてる、当然では?」
「ん? いえ、お母さんが私の父親と関わったのはずっと前なので、亡くなっている可能性はありました」
ネノの言葉に、レモニーフィアがそう答える。
その返答に益々よく分からない気持ちになった。メルは何も考えていないのか、興味深そうにレモニーフィアの話を聞いているだけである。
俺達が不思議そうな顔をしていたのを見て、何かに思い至ったのかレモニーフィアは告げる。
「あ、あのですね。ファンタズーアスは母体に子が宿ってから産まれるまでの期間がかなり長いんです。それこそ数十年とかかかったりするってお母さん言ってました。私は混血だったから余計に時間かかったみたいで」
レモニーフィアに言われて、人間であった父親が亡くなっていたかもと思い至った理由が分かった。
要するに妊娠期間がとてつもなく長い種族らしい。なんか、妊娠って普通に凄く大変なイメージしかないけれど、やっぱり種族が違うとそういうこともあるんだろうな。
全然思い至らなかったけれど、それならレモニーフィアの父親はかなり高齢になっているのでは?
魔女と親しくしていた時期が何歳ぐらいの時なのか分からないけれど、少なくとも数十年は時間が経過しているわけだし。
生きているなら会わせたいなとは思うけれど……、どうなんだろうか。
「そうなんだ。じゃあ、会いに行こう」
ネノは軽い調子でそう口にする。
俺はネノと同じことを思っていたらしい。
レモニーフィアはその言葉を聞いて、少し思い悩む様子を見せた。一度も会ったことがなさそうだし、やっぱり色々と思う所があるんだろう。
「……一先ず、生きているかどうかの情報の確認とかしたいです! ただ領主の一族らしいとのことなので会うのは問題ないか調べてからがいいかもです」
そう言われて俺とネノは頷いた。
そういえばそうだ。この街では魔女に関する悪い噂が流れている。それが誰かが意図的に流しているものだとするならば、領主一族が関わっていることはきっとあるだろうな。
……レモニーフィアの父親は、娘が産まれたことを知っているのだろうか? それに魔女が異種族だったことも。少なくともレモニーフィアの父親に会いたい気持ちを踏みにじるタイプの人間だったら嫌だな。




