魔女の娘と共に街を歩く ⑪
「この鍵をどこで手に入れたんだい?」
早速、お店が開く時間帯になって俺達は鍵を持ってそこへ向かった。街の不動産関係や鍵に纏わる仕事をしているらしいその店の店主は、最初はにこやかに笑っていた。
だけれども鍵を預けて、確認してもらっている最中にみるみるうちに顔が怪訝そうに歪んでいく。
そして鍵を持っていたレモニーフィアに冷たい視線を向けている。
「何処って、これは……お母さんが残してくれたものです」
レモニーフィアがそう言うと、その店主は顔色を変えた。
「……彼女の? 本当かい?」
この街と、魔女はそれだけ交流を持っていたのだろうなというのが街の人々の反応でよく分かる。少なからず彼らは魔女のことを認識している。――それが森に住まう魔女と同一人物であるとは知らなさそうだけど、それだけこの街でレモニーフィアの母親と関わってきた人たちは、その存在を大切にしていたのだろうと分かる。
だからこそきっと警戒をしていたのだろう。この鍵が、魔女の持ち物だと知っていたから――。
急に表情が変わったから驚いていたけれど、そういうことであるなら良かった。
「はい」
「そんな話は聞いたことがなかったけれど……」
ただ店主からしてみると、娘の話は聞いたことがなかったらしくまだ警戒しているらしい。
レモニーフィアはそれに対して、慌てたように母親のことを説明し始める。とはいってももちろん、魔女が人非ざるものであることを悟られないような説明をしていたが。こういう時にぼろを見せないのはレモニーフィアのしっかりしていることだとは言える。
「思ったより、人と関わってたんだね。レモニーフィアのお母さん」
「そうだな。無事に鍵の開けられる場所を教えてもらえればいいが」
俺とネノはレモニーフィアが店主とやり取りをしているのを見守っている。メルも俺達の真似をして、静かにしていた。
それにしても魔女がどんなふうに生きてきたのかは、やっぱり娘であるレモニーフィアの話を聞いただけでは分からないものだなとそう思う。こうしてレモニーフィアと一緒に街で魔女のことを調べれば調べるほど、新しい情報が沢山出てくる。そういうのは楽しいなと思う。
「それにしても……本当に誰にもレモニーフィアのことを言ってなかったぽいな」
「うん。多分、色々と思う所があったと、思う」
「だよな」
「親の中には子供を大切にしない人、いる。でも話を聞いている限りレモニーフィアのお母さんはちゃんと、お母さんしている」
「俺もそう思う。……やっぱり何か理由がありそうだよな」
「ん。多分。私、子供居ないから分からないけれど」
「俺もなんとなく想像しか出来ないな。でもネノとの子供が出来たら俺はうんとかわいがるけれど」
「私もそう。レオとの愛の結晶、産まれたら凄く嬉しい。それで大切に、育てる」
ネノは俺との子供が出来た時のことを想像しているのか、頬を緩ませている。レモニーフィアを見ていると、そういう幸せな将来のことを想像してしまう。それはレモニーフィアが街のことをあまり知らなくて、世間知らずで……将来産まれてくるであろう子供を思わせるから。
「ネノとの子供はきっと可愛いんだろうな。生まれる前から可愛いって分かる」
「うん。私も、そう思う。レオとの子供なら、世界一可愛いはず。私、親バカなりそう」
「俺もそうだな。でも本人のためにならない甘やかし方はしたくないけれど」
にこにこしているネノの発言に俺は頷く。
「レオ様とネノ様はなんだかんだ、子供にも厳しくはしてそう。ちゃんと躾けすると思う」
俺達の会話を黙って聞いていたメルはそんなことを言う。
どうだろうなぁ? 産まれてすぐはでろでろに甘やかすかもしれない。だって赤ん坊だと自分では何も出来ないだろうから。だけど物心がついて、自分の足で歩き、自分の頭で考えるようになったらきちんと悪いことは悪いと注意はすると思う。
だって甘やかされ過ぎると駄目になってしまう人というのは多いはずだから。勇者であるネノの子供だからって特別視するような周りは居るかもしれない。けれどあくまで勇者なのはネノであって、その周りにいる家族は正直言って何も関係がない。
勇者の血を継いでいるからと、子供に変なのも近づいてきそうな予感は今からしている。もちろん、子供が出来たら親である俺とネノで、そういう面倒な存在が近づいてこないように守るつもりではあるけれど。
「僕、早く、レオ様とネノ様の子供みたいなぁ」
「授かり物だから、すぐは無理。出来たら、メル、可愛がる。でも可愛がり過ぎ駄目」
「んー。可愛がり過ぎってどのくらい? 僕は正直レオ様とネノ様の子供の言うことならほいほい聞きたいけど」
「駄目」
メルは俺達の子供が産まれたら、何でも言うことを聞く気満々らしい。なんで高位のドラゴンなのにまだ産まれてもない子供にそうなんだか……。産まれた際にはメルが甘やかしすぎないようにみておかなければなと思った俺である。
さて、そんな会話を俺達がしている間にレモニーフィアは鍵の場所を聞き出したらしい。
「お待たせしました。場所が分かったので行きましょう」
そう言われて、俺達は頷くのだった。




