魔女の娘と共に街を歩く ⑨
「レモニーフィア、心当たりないの?」
「はい。……お母さんが残してくれたものなので、これが何処の鍵からは知りたいですけれど。残念ながら私には何をあける鍵か分かりません」
ネノの問いかけに、レモニーフィアは考え込む様子だった。
ネノはその言葉を聞いて、じーっとその鍵を見つめる。
「家の鍵か、何かには見える」
「……そうですね。サイズ感的に私もそう思います」
「もしかして、『魔女』、家を持ってた?」
「私はその家の場所が分からないんですよね。ずっとあの……家に居て、私は森から出ることもなかったので……」
レモニーフィアはそう言って悩む素振りを見せている。
レモニーフィアの世界は、本当に限られたものだったのだなと思った。それにしてもこの一つの鍵からどうやって家を探せるのだろうか?
「わざわざこの街で、箱置いてたなら、この街の家の鍵?」
「かもしれないですね……。鍵のお店に聞きに行ったら分かったりしますかね」
「そうだと思う。でも今は開いてない。やるなら明日」
すっかりもう遅い時間なので、ネノが言っている通りにもう既にお店はしまっているだろう。俺達は基本的に宿に泊まるか、《時空魔法》で持ち運んでいる家で過ごしているので、街の家について詳しいわけではない。
どういう仕組みで管理されているかとか、そのあたりもそんなに知らない。
ただこういう大きな街だと、物件を管理している人というのは居るはずなのでそのあたりのお店の人に聞いたら何処の鍵か分かるかもしれないというのは俺も同意である。
ネノが言う通り、この街の物件の鍵だったら良いけれど……。
もし違う場所の鍵だったら中々大変だよな。流石に『魔女』も娘を苦労させるようなことはしないと思うから、この街の鍵だとは思うが。
「……そうですね。今すぐは無理ですね」
そう言いながらもレモニーフィアは何処か落ち着かない様子だった。
きっと今すぐにでも飛び出して、何処の鍵なのか知りたいのだろうなと思う。
「焦っちゃ駄目。今日は休んだ方がいい。ゆっくり寝て、明日探せばいい」
「はい」
ネノの言葉にレモニーフィアは頷く。
そしてそれから宿のもう一室へと戻って行った。残されるのは、俺とネノと、メルである。
「レオ様、ネノ様、あの解錠方法凄かったね! 僕、あんなの初めて見たよ」
メルはレモニーフィアが去った後、興奮した様子で俺達に話しかけてくる。
解錠作業中に注意されてから大人しくしていたメルだが、実は色々と興奮していたのだろう。レモニーフィアが去るまで我慢していたあたりは偉いが。
「ん。凄かった。今はレモニーフィア、鍵のことで頭いっぱいだから聞けなかった。後で、解錠のこととか聞きたい」
「そうだな。俺もあれ、どういう仕組みか気になるな。そもそも何かをあんな風に封じ込める技術もよく分からないし、知りたいよな」
ネノの言葉を聞きながら俺も頷く。
宝石と魔力を使って解錠している様子は、じっと観察していた。魔力の流れなどは理解は出来たけれど、実際にどういう仕組みなのかが全て分かっているわけではない。少なくとも俺達にはよく分からない技術だ。そういう知らないことを知りたいと思うものなので、色々落ち着いてから聞きたいものだ。
「僕も知りたーい!! あの方法じゃないと開かないのかな? 別の方法もあったりするのかな? それに他の宝石だと代替えがきかないのかとか、特定の人じゃないと開けられないとかあるのか気になるよね」
メルはそう言いながら、興味津々と言った様子である。こんなに興奮していてメルは眠れるのだろうか?
「ん。そのあたりも全部聞く」
「そうだな。それにしても『魔女』はなんでわざわざ鍵を残したんだろうな。あんな特別な方法で封じられているものだから、よっぽどのものを残しているかと思うけれど」
「自分の口で言わなかったのも、気になる。『魔女』はレモニーフィアに、色々説明してない」
「何か複雑な事情でもあるのかもな」
もう亡くなっている『魔女』が何を考えていたのかは俺達には分からない。わざわざこういう方法で鍵を残していたわけだけど……レモニーフィアが街にやってこなければ、あのお店に行かなかったら――届かなかったものなのだ。
「見つからなくてもいい……と思っていたのかもな」
「なら、鍵の場所いっても、レモニーフィア、がっかりする?」
ネノは俺の言葉を聞いて、大したものが残されていないのではないかと思ったらしい。
「どうだろうな。レモニーフィアにとって、鍵を見つけて良かったと思えるものが残されていればいいけれど」
「私もそう、思う」
正直、何が残されているかも全く見当もつかないのでただレモニーフィアにとって満足の居るものが残されていればそれでいいなとは思っている。
そんなことを話した後、俺達は眠りについた。
メルはしばらく興奮して起きていたみたいだけど、寝るように注意したら大人しくしていた。それでいつの間にか眠っていた。




