魔女の娘と共に街を歩く ⑧
宝石をとりおえた後、俺達はそのまま街へと戻った。それからその宝石を使っての解錠を早速試してもらうことにする。
とても綺麗な宝石。――それでいて魔力が内封していることはよく分かる。だけれどもそれを使ってどのように箱を開けるのかは分からない。こういう分からないことがあると、なんだかワクワクするものだ。
「レオ、どうやってあく?」
「分からないな。やっぱり『魔女』と呼ばれただけあって凄いよな」
「うん。とても凄い。そういう異名持ちの人、呼ばれる理由ある」
誰かにそういう風に、特別な呼ばれ方をする人に関してはネノが言うようにそれだけの理由が存在する。『魔女』はそれだけ驚くほどの力を持っていたのだろうというのがよく分かって、だから――箱の中身はなんだろうとか、『魔女』はレモニーフィアに何を伝えようとしているのだろうとか……そういうことにも興味を抱く。
「それ、すぐあかないのー?」
メルはなんだか作業をするレモニーフィアを見て、我慢が出来ないと言った様子だった。
そんな態度をされて、レモニーフィアは慌て始めたのでネノがメルを押さえつける。
「メル、レモニーフィアは集中しているの。邪魔しちゃ駄目」
「う、うん。ごめん、ネノ様」
そして注意をされたメルは、慌てて謝っていた。それからメルは大人しく座っている。……本当にメルはまだ子供だからというのもあるだろうけれど、落ち着かない。
レモニーフィアはメルが大人しくなったのを見て、ほっとした様子だ。
それからレモニーフィアは箱を机の上におきその前に――、巨大な赤い宝石を手に持つ。解錠に必要だからと、レモニーフィアは大きめに採掘していたのだ。
俺とネノと、メルはじっとレモニーフィアを見据える。
――何かを呟く。
だけどあまりにも小さな声だったから、俺には何を言っているかは分からなかった。それでもレモニーフィアがとてつもなく集中していることだけは分かる。
そしてレモニーフィアが何かを呟いたと同時に、彼女が両手で持っている大きな宝石が光った。眩しい光に……外にまで漏れていないかというのだけ少し心配に放った。ただ窓の外を見た限り、そこまで気にされていなかったようだ。良かった。騒ぎになったらややこしいからな。
俺達ならば騒ぎになっても最悪どうにでも出来るけれど、出来れば荒事になるような事態は避けておきたい。
そんなことを考えている俺達の前で、驚くべき光景が広がる。
レモニーフィアの目の前にある大きな宝石が、突如として複数にわかれる。とはいっても割れるといったものではなく、綺麗に分割されているのだ。
――なんともまぁ、不思議な光景である。
「わぁ」
ネノもその様子が珍しいのか、目を輝かせている。そんなネノを見ると、可愛くて俺も自然と笑みをこぼす。
勇者として様々な場所を訪れ、珍しいものも幾らでも見たことがあるというのに、そんなネノにとっても目の前の光景は珍しいのだろう。
こういう『魔女』の娘だから見せることが出来る特別なものを、間近で見れることは楽しい。
その同じ大きさに綺麗に分割された宝石は、宙に浮いている。支えていないのに、こうしてぷかぷか浮かんでいるのも、また不思議で、何処か幻想的だ。
その真っ赤な宝石が、箱を囲うように浮かび上がり、くるくると時計回りに動き始める。
見ているだけで何だか面白い。
その間、ずっとレモニーフィアは魔力を放出しているように見えた。レモニーフィアと、分割された宝石が魔力でつながっているようだ。
しばらく、ぐるぐると箱の周りを赤い小さな宝石が回る。
――その宝石は、箱に近づいたり離れたりを繰り返していく。
そしてその宝石が、一か所に集まる。その宝石から、魔力が漏れる。その漏れた魔力が、箱を覆い始める。
また、レモニーフィアが何かを小さく呟いている。
それを合図とするように、宝石から放たれる魔力が変わったのがなんとなくわかった。
……その魔力が、箱を覆ってしばらくして鍵が開くような音がした。そしてその箱が、ぱかりっと開く。開け口などなかったはずなのに、こういう技術で開くんだな。俺もこういう仕組みを使えるようになってみたいな。そしたら魔法具作りに役立てることが出来そうだ。
「開いた……!」
レモニーフィアはほっとした様子で、声をあげる。
もしかしたら開けることが出来ないかもと、不安を感じたいたのだろう。
俺達はまじまじと、開いた箱を見る。
「鍵?」
「何かの鍵だな」
そこに入っていたのは、そう、銀色の鍵。
わざわざこんな特別な箱の中に入っている鍵だんて、きっと何かしら特別なものだろうということは想像がつく。
「……どこの鍵だろう?」
レモニーフィアはそう呟き、鍵を手に取る。
そしてまじまじと、その鍵を見ている。
レモニーフィアは何処の鍵なのか、全くぴんと来ていない様子だった。




