魔女の娘と共に街を歩く ⑦
レモニーフィアと共に俺達は一度街の外に出た。というのも箱を開けるために必要なものをとりにきているからだ。
夜にさしかかる中、街の外に出ようとした俺達は門番には当然止められたけれど説得して外に出た。
……まぁ、夜の時間帯って魔物が活発化する時間帯だし、心配されるのは当然だろうけれど。
レモニーフィアの心当たりは、森で採れる宝石らしい。特別な力を有しているその宝石により、開け口のない箱を開けることが出来るようになるかもしれないとそう思っているようだ。
そういうわけで森の中へと赴き、奥の方へと向かっていく。
――その宝石はとても貴重なものらしく、そこで採れることはあまり人にばらさない方がいいらしい。それを目当てに森の中へと足を踏み入れるような存在が増えると面倒な事態になるからだろう。
商品としては価値のあるもので、売り払えばそれなりの富を手にすることが出来る。しかし普通の人間とは違う種族であるレモニーフィアやその母親にとってはそういう人間にとってはどうしても手に入れたいと思うものでもそうではないのだろう。
種族が異なればそれだけ価値観も違う。それに同じ種族であったとしてもその育ってきた状況が異なれば何を大切にしているかというのは変わるものだしなぁ。
そういう違う価値観に触れられたら、それはそれで楽しい。俺とネノも夫婦とはいえ、結局その価値観は全て一致していない場合もある。全部一緒よりもそっちの方が楽しいとは思う。
「やっぱりこのあたりは魔物が多いです」
などと言いながら、魔法を使って簡単に魔物を倒しているレモニーフィアは流石、『魔女の娘』だなと思う。
『魔女』に魔法を教わってきたからこそ、これだけのことが出来るのだろう。
俺とネノ、それにメルも一緒についてきてはいるが、本当に付き添いなだけだ。主導権はレモニーフィアにある。俺達は特にやることはない。
宝石のとれるエリアは、洞窟のような場所だった。『魔女』の住むという森の中に、こういう鉱石がとれるような場所があることも驚く。元々森の中には人が入り込まないようになっているので、手つかずの場所である。
こういうあまり人の手が入っていない自然のままの場所というのは、とても綺麗でいいなと思う。
洞窟の入り口に魔物は居たが、レモニーフィアのことを知っているからか一瞬目を明けた後にすぐに眠った。……レモニーフィアを敵に回したくないという気持ちと、あとは共存している面もあるのだろう。
メルがちょっかいを出そうといていたから、それに関しては止めておいた。流石にそこで騒動を起こされるのは困る。というか、やめてほしいと思う。
そのまま洞窟の中へと入り、レモニーフィアが該当する宝石を掘っている様子を眺めている。
「とっても綺麗」
「ああ。こういう綺麗なものを見ると心が躍るよな」
「うん。ねぇ、レモニーフィア。装飾用に少しもらってもいい?」
じっと洞窟内を見ていたネノはそう問いかける。レモニーフィアはその言葉にこちらを振り向き、「少しならいいですよ」とそんな風に答えてくれる。
「ネノ様、欲しいの? 僕がとろうか?」
「駄目。メルは大雑把。それだと、宝石駄目になる」
ネノの言葉を聞いて、メルが宝石を掘ろうとしていたけれどネノに止められていた。俺も同意見だ。メルはその辺の細かい作業は苦手だからな。この場を壊してもおかしくない。
特に興奮した状況のメルはそんなことをするのが想像が出来るから。
「えー、そう? 僕、結構こういうキラキラしたもの好きだよ?」
……やっぱりドラゴンというのは、そういう風に何かしら集めるような習性あるんだろうな。メルの母親とか、兄弟とかもそういう感じなんだろうか? 高位のドラゴンに関しては他に知らないし、実際にどうなのか分からないけれど。
「レモニーフィア、メルも欲しそう。それもとっていい?」
「大丈夫ですよ。お三方分ぐらいならとっても大丈夫ですよ。そのうちまた回復するものですから」
ネノが笑いかければ、レモニーフィアも軽い口調で答える。
ネノはその言葉を聞いた後、嬉しそうに小さく微笑み、そのまま宝石をとりはじめた。
可愛い奥さんが楽しそうにしているのを見るだけで、俺は嬉しい気持ちでいっぱいになる。この宝石で何かしらの魔法具やアクセサリーを作るのもいいなとそう思っている。ネノにはどういうものが似合うだろうかと考えるのも楽しい。あとはお揃いのものにするのもいいなぁ。
「ネノ、何作りたい?」
「何でも、楽しそう」
「ネノ用のものにするか? それともお揃いにする?」
「一緒のがいい。レオとお揃い、嬉しいから」
可愛いことを言うネノを見ると、口づけをしたくなるけれど少し自重する。ネノは宝石を取るので一生懸命だしな。あとメルだけならともかく、レモニーフィアも実際年齢はもっと子供だし。
そういうわけでそんな会話を交わしながら、宝石をとる時間が過ぎて行った。