魔女の娘と共に街を歩く ④
魔女が薬をおろしていたお店は、レモニーフィアは名前だけを知っていたみたい。
だからそのお店の名前を、俺達は探してみる。この街には薬屋は沢山あって少しそこに向かうのに時間がかかった。
名前が分かっていたから場所自体はすぐに分かったけれど、街の端っこの方にあるので向かうのが少し手間取った。あと凄く入り組んだ裏路地の向こうとかだったから。
ただそこの薬屋は行きにくい場所とはいえ、繁盛しているようだ。それだけ薬師としての技術があるのだろう。そうでなければこんな場所で繁盛することはない。
レモニーフィアが母親である『魔女』のことを口にすると、寡黙そうな様子の男性の店主は「彼女に何かあったのか?」と心配そうな様子を見せていた。
『魔女』が亡くなったことを告げられたその店主はショックを受けた表情を浮かべていた。
「そうか。彼女が……。それにしても君は彼女の娘なのか。話は聞いたことがある」
「お母さんの話を聞いてもいいですか? 私はお母さんからあまり街での話を聞いたことがありません」
レモニーフィアがそう口にすると、その店主の男性は『魔女』の話をしてくれる。
それにしても『魔女』はレモニーフィアに意図的に街の話をあまりしていなかったように見える。そして街に連れて行くこともなかった。……それはどうしてだろうか? 長命種だからこそ、レモニーフィアが自立するのはずっと先だと思っていたのかもしれない。こんなに早く亡くなることを本人も想定はしていなかったのかもしれない。そんな風に思った。
『魔女』は時折、ふらりとこの薬屋に訪れていたらしい。それもその店主が若い頃かららしく……、この人は『魔女』が長命種であることは理解していたようだ。それでも出来の良い薬をおろしてくれるのならばそれでいいと思っていたのだとか。それに加えて店主にとってみれば『魔女』は昔馴染であり、少なからずの友愛感情はあったのだろうと思う。
だからこそ周りに『魔女』のことを言えば変に騒がれてしまうと思い、言いふらすようなことはしなかったらしい。
それが正解だろう。
というか、そういう店主とだからこそ『魔女』は付き合いを深めていたのだと思う。基本的に姿を変えることが出来るからこそ同じ姿で接する人の方が少なかったのではないか。その中でそれだけ親しくしていたなら、この店主は『魔女』にとって少なからず特別だったのではとは思う。
……もしかしたら、レモニーフィアの父親ということもあるか?
なんて思いながらじーっと店主を見てしまう。
「あの、お母さんが親しくしていた男性とか知ってますか?」
俺が考え込んでいるとレモニーフィアも同じことを思っていたらしい。
『魔女』と親しくしていたというのならば、父親本人か、父親につながる情報を何かしら持っているはずだ。
それにしても父親が分からない状況か……。俺とネノは両親が亡くなっているけれど、そういえばメルはどうなんだろう?
「そういえばメルって父親は? いつも母様しか言ってなかったけど」
「んー、知らない!!」
ふと気になってメルに問いかけたら、そんな元気な返事が返ってくる。
……ドラゴンだと人とは夫婦関係が異なるのかもしれないけれど、知らないのか。メルが小さい頃にいなくなったとか、亡くなっているとかそういう感じだろうか? それにしてもメルは一切、父親に対して興味がなさそうで少し呆れた気持ちになる。
きっといつかもしその父親にあってもメルは気にしないだろう。
俺がメルに問いかけている間に、レモニーフィアは店主から『魔女』が親しくしていた異性についての情報を聞いていた。
ただ店主は親しくしていた男性は知らないらしい。
「あなたはお母さんと恋仲だったりしましたか?」
「ぶっ」
勢い余ってレモニーフィアが問いかけると、店主は吹き出し、咽ていた。あまりにも予想外の言葉を言われたのだろう。
「まさか……! 私なんぞ、彼女は相手にしないよ」
その姿は嘘を言っているようには全く見えなかった。本当にそういう仲ではなかったのだろう。
ただ言い方からすると店主側はそういう意味での好意は『魔女』にあったのかもしれない。『魔女』側は全く相手にしてなかったのかもしれないが。
「……そうですか。お母さんが街で何をしていたかとか、どこで過ごしていたかとか知ってますか?」
レモニーフィアは少しがっかりした様子で、続けて問いかけている。
折角母親の知り合いに出会えたのだから、何か情報が欲しいとそう思っているのだろう。
しかし店主はそこまで詳しい情報は知っていないらしい。ただ『魔女』が関わりがあったであろうお店などは一部教えてくれた。
「……それにしても彼女は君に詳しい所は何も話していなかったのかい?」
「はい。あまり……。それにお母さんが亡くなったのは突然でしたから時間もなかったのだと思います。私は父親を知りません。だから……街に父親がいるのではないかと思ったんです」
レモニーフィアが店主に向かってそう言うと、店主は益々驚いた顔になった。




