魔女の娘と共に街を歩く ③
「こんな風に、自分で何かを買うのって楽しいんですね」
レモニーフィアを連れて、色んなお店に入った。そしてそこで買い物を何度も繰り返していた。
とはいえ、持ち運びが出来て今後も使えそうなものなどだけだが。それにしてもただお店の商品を見て回るというだけでもレモニーフィアには楽しくて仕方がなかったようだ。
「ん。買い物は楽しい。私、レオとよく食べ歩きとかする。色んな所行くと、美味しいもの色々見つかる」
「そうなんですね」
ネノの言葉を聞いて、レモニーフィアは楽しそうに微笑みながら頷く。
初めて街を訪れたというレモニーフィアは、何でもかんでも本当に目新しいものなのだろうなというのがよく分かる。
俺も生まれ育った村から出た時は、新しいものばかりだなと思ったけれどレモニーフィアの場合はそれ以上だもんな。
この世界にはまだまだ行ったことのない場所が溢れているから、レモニーフィアのように他人と関わっていない存在にもさらに出会えたりするのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、美味しそうな屋台を見かける。
魔物の肉を焼いたもので、熱々だ。
「購入ありがとう!」
その屋台の店主は俺達が四人分購入すると、嬉しそうな顔をしていた。過剰なほどに喜んでいるのを不思議そうに見ていると、その理由を教えてくれた。
「魔女のせいで客足が少ないんだ。外から人が中々やってこないんだ。それに加えてここしばらくは怯えて家から出てこない人たちもいてね……」
そんなことを言われて、本当に何でもかんでも魔女のせいにしているなと何とも言えない気持ちになっている。
この街の人達はレモニーフィアの母親である魔女が亡くなっていることを知ったらどんな反応をするだろうか? それでも魔女のせいにしようとする?
下手したら魔女が亡くなっていても、魔女のせいだとそう言い続けるかもしれない。
「そうなんだ。でも実際に魔女の被害を受けた人の話は聞いていないけれど」
メルが何か言いたげにそう言ったら、ぎろりっと睨まれていた。ただ魔女のせいだと言われているだけで、実害が出ているわけではない。なんというか、この街は本当にレモニーフィアにとってはややこしい事態になっているなと改めて思う。
何かしら対処をしないと、勝手な思い込みでこの街の人々はさらに暴走してしまう気がする。とはいえ、レモニーフィアがこの街に関わらないことを結果として望むならそれはそれだとは思う。
人の行動なんてその時になってみないと分からないもので、魔女の噂が出回っていても実際に魔女が出てこなければ徐々に治まる可能性もないわけじゃないだろう。でもそうするなら、森にかけられた魔法を解いて、レモニーフィアの住んでいる家に危険な魔女は居ないと示した方がいいかもだけど。
下手に人が入れない森がある状況だと、嫌な勘繰り方をする人も出てきそうだし。
レモニーフィアは母親の話を聞いて、顔色を悪くしていた。
「これ、美味しい。ありがとう。私達、もう行く」
ネノはレモニーフィアの様子に気づいて、店主にそれだけ告げるとそのまま歩き出した。レモニーフィアはそれに慌ててついていく。何か言いたげなレモニーフィアに、ネノは振り向き口元に人差し指を当て、しーっとする。
こんな街中の、誰が聞いているか分からない場所で魔女の話題は口にすべきでないと思ったからだろう。
レモニーフィアはそれに頷いた。
その後、俺達は公園のベンチに座って購入した物を食べながら会話を交わす。
「もうしばらく街を見てから、一旦宿に泊まるか。部屋、二室取るからレモニーフィアもそこに泊まるといい」
「え、でも宿代ぐらい私が払えますよ?」
俺の提案にレモニーフィアはそういう。
「気にしなくていい。そのお金は母親がレモニーフィアのために残した大切なものだしな」
これからしばらく街中を色々見て回る予定なら、一旦宿に泊まった方がいいとは思った。
だって、毎日のように街を出入りしていたらただでさえ魔女の悪評が出回っているせいでピリピリしている街の住民たちを刺激するべきではないし。
レモニーフィアが魔女の娘だと知られたら、この街の連中が本当に何をしでかすか分からないのでそのあたりは慎重に対応した方がいいなと思っている。もしかしたら力づくでどうにかしなければいけない事態になるかもだけど、まぁ、その時はその時で。
「ん。レオの言うのでいい。それより、次、何処みたい?」
「ええっと……」
ネノに問いかけられてもレモニーフィアはぴんと来ていないようだ。
「僕は酒場とか行ってみたい!」
「いや、なんでだよ」
「酒場って、楽しいことがいっぱいあるって前に聞いたから」
「……メルは行ってもお酒とか飲めないからな? 飲んで大変なことになったの忘れたか?」
メルに呆れたようにそう言えば、つまらなそうな顔をされる。
……誰がメルに酒場の話などしたのだろうか。明らかに子供の見た目のメルをそういう場所には連れて行くことはまずないだろう。
「あっ」
俺とメルが話していると、レモニーフィアが声をあげた。
「どうしたの?」
「行きたいところありました。お母さんが薬とかを売りに行っていたお店があるはずなんです」
レモニーフィアは突然、そんなことを言い始めた。




