森の中に住まう少女 ⑥
「気をつけようと思います。どうやって生きていくにしても……ちゃんと周りは警戒しないといけないですね」
「それがいい。それか、旅をする場合は見た目を怖そうにするとかあり」
「そうなんですか?」
「そう。私とか、レモニーフィアみたいな女の子だと、見た目で舐められたりたまにする」
レモニーフィアとネノがそんな会話を交わしている。
ネノは可愛くて、守らなければならないようなそんな雰囲気はある。本人自体はとても強くて、自分の力で未来を切り開けるような存在だけれども。
「『勇者』であるネノフィラーさんを侮る? こんなに存在感からして凄まじいのに?」
「そういうの分からない人、多い。だから私が名乗らなきゃ、『勇者』だと思わない人もいる」
「そうなんですね。人間はよく分からないですね……」
「だからこそ、レモニーフィアのお母さんのことも好き勝手言ってる」
「そうですね……。お母さんはとても凄い人だったから、人がどうにか出来るような存在ではないです。私はお母さんが怒った所は見たことがないですけれど、私では歯が立たないぐらい本当に強かったですから」
レモニーフィアはなんというかやっぱり人間とは違う種族だからこそ、ネノへの感じ方も異なるらしい。
見た目だけで人を判断というより、何かしらネノに感じ取っていたようだ。
それから俺達はしばらく会話を交わしていたのだが、ネノのお腹がぐぅとなった。
「……レオ、お腹すいた」
じっとこちらの方を向いてそういうネノ。
「すぐ作るから待って。レモニーフィアも食べるか?」
「いいんですか?」
「構わない」
俺がそう言うとレモニーフィアは頷いたので、料理を作る。話を聞いているのに飽きたらしいメルも一緒に料理を作るのを手伝ってくれる。その間もネノとレモニーフィアは話していた。
それにしてもネノはファンタズーアスという種族にも、レモニーフィア自身にも興味津々なんだろうなと思う。ネノが楽しそうだと俺は嬉しい限りだ。
「レオ様、今日は何を作るの?」
メルが期待したようにこちらを見ている。
どんな美味しいものが食べられるのだろうかと楽しみなようである。
「そうだな。ピザでも焼くか」
「ピザ? 美味しそう!! 僕、お肉いっぱいの奴がいいなぁ」
「野菜も色々入れるぞ」
「うん。それでいいよ。僕、野菜も好きだし」
にこにこしながらメルがそういう。
メルはご飯を食べることが好きなので、これからどんなものが出てくるかと楽しみで仕方ない様子である。
生地や載せる具材の準備をする。
どういう具材をのせるか考えるのも楽しいんだよな。
メルはどうせ沢山食べるだろうから、多めに焼いておくことにしよう。どうせ余ることはないだろうし。
というわけでトマトソースをふんだんに使ったものや、魚介類を沢山のせたもの、ホワイトソースとキノコなどをのせたものなど様々だ。うん、どれもおいしそうだ。
ピザの面白いところってこうやって具材の一つでも変えれば全く別の食感や味などが楽しめることだよな。それこそ無限の可能性があるというか。幾らでも種類を生み出せる感がある。だって何をのせて焼いてもいいわけだしなぁ。
焼きあがるまでの時間は別の料理の準備もする。
ピザに合いそうなスープやサラダなどを準備しておくことにする。あと飲み物もな。
「レオ様、美味しそう! つまみ食いしていい?」
「……出来たのじゃなくて、こっちの材料ならいいぞ」
「わーい。じゃあ、食べる!」
料理の最中に我慢できなくなったらしいメルは、涎を垂らしそうになっていた。
俺が材料として取り出している食材なら食べていいと言えば、ばくばくと食べ始める。
「あんまりつまみ食いしすぎると出来たの食べさせないぞ?」
そう言ったら一旦、手を止めた。
言わなかったらどれだけつまみ食いするつもりだったのだろうか?
それから調理できたものを机に並べていく。
「わぁ! これ、レオニードさんが作ったんですか? 美味しそう……」
「ん。レオの料理は美味しい。レモニーフィアは、いつも何食べてた?」
「簡単なものばかりですね。森で採れるものを焼いたり、煮たりしたものしか食べてなかったです。お母さんも料理とかあんまりしなかったですし。それに人って一日に何食も食べるんですよね? 私そんなに沢山食べなくてもいいから……」
そんな風な言葉を聞いて、やっぱりファンタズーアスは魔物とかの方が近いのかもなと思った。
基本的に俺とかネノは食事を必要としていて、あまりにも食べないと餓死してしまう。でも種族的にファンタズーアスはそこまで食事を必要としないから、食事に関心がないのかもしれない。
「もったいないよ!! 食べるのって凄く楽しいよ。僕も、そんなに食事とらなくてもどうにかなるけれど、レオ様の料理が美味しいからついつい毎回レオ様達と一緒に食べてるもん!」
ネノがそう口にすると、レモニーフィアは興味深そうな顔で頷いた。
それから四人で食事を始めたわけだが、
「美味しい……」
思ったよりもレモニーフィアは食べることを楽しんでいた。




