森の中に住まう少女 ⑤
「結構時間たった。レモニーフィア、また魔法に穴開けるのも面倒だから、隣に家、出す、いい?」
しばらく会話を交わした後に、ネノがそう問いかける。
レモニーフィアはその言葉を聞いて不思議そうな顔をしている。家を出すという表現がよく分からなかったのかもしれない。
こういうファンタズーアスという珍しい種族の女の子も驚かせることが出来るなんて何だか面白い気持ちでいっぱいになる。
「家を出す?」
「私のレオ、《時空魔法》使える。だからすぐに出せるの」
ネノが得意げな顔をして告げる。
俺のネノは本当に可愛い。だって俺のことを自慢するようにあんな様子で言っているのを見ていると、思わず笑ってしまう。
「《時空魔法》? レオニードさんは珍しい魔法を使いこなせるのですね。お母さんも《時空魔法》を少しは使えていたと思うけれど、そんな大きなものを持ち運びできるなんてすごい。あれ? レオニードさんは『勇者』ではないんですよね?」
「レオは『勇者』じゃないけれど、凄い。私の自慢の旦那さん」
ネノがそう告げると、レモニーフィアは益々驚いた表情になる。
「そうなんですね。レオニードさんは凄いんですね。家を出すことは問題ないです」
レモニーフィアのその言葉を聞いて、俺達は一旦外に出ることになる。レモニーフィアも《時空魔法》に対して興味津々のようだ。
「わぁ。凄い。こんな大きなものを運べるんですか?」
俺が家を取り出したら、レモニーフィアが声をあげる。
こんな風に目を輝かせている様子を見ると、幾ら姿を大人に変えていてもやっぱり中身は幼いのだろうなとは思う。
「レオ様は凄いんだよ!! レモニーフィアなんて簡単にどうにでも出来ちゃうんだから」
「メル、レモニーフィアを脅すなよ」
なぜか少し脅しをかけるような言葉に、俺は思わずと言ったように止める。
メルの言葉を聞いて、レモニーフィアは少しびくっとしていたからな。明らかにメルの方が長生きしてそうだし、大人げないなと思う。
「レオニードさん、この家の中に入ってみてもいいですか?」
メルの脅し言葉に一瞬驚いた顔になったレモニーフィアだけど、気を取り直した様子でそう告げる。俺が取り出した家の中が気になるらしい。特に断る理由もないので頷く。
「中、案内する。私とレオの愛の巣」
「愛の巣……」
ネノの言葉にレモニーフィアは何かを想像したのか、ぼっと顔を赤くする。
「ネノフィラーさんは、本当にレオニードさんのことが好きなんですね」
「ん。大好き。レモニーフィアも、外の世界で、好きな人出来るかも」
ネノが家の中へとレモニーフィアを誘いながらそんな会話を交わしている。俺とメルはその後ろをついていっている。
ネノは今、家の中を案内したい気分のようだ。本当にネノは可愛いよなぁ。
「中は見た目通りなんですね」
「ん。広げるとか、大変。この家持ち運べるだけで、私のレオは凄い」
「はい。とても凄いと思います。それにしてもこうやって家を持ち運べるとなると、旅をするのも楽そうですね」
レモニーフィアはそう言いながら、興味深そうに室内を見渡している。
「レモニーフィアは旅をしたいと思っているのか?」
「まだ、分からないです。私は正直森から出たこともないですし、他の人と関わったこともないので……。外の世界はきっと私にとっては珍しいものしかないのだろうなって。それで外を見たくなったら……旅に出るのもいいかもなとは思います」
レモニーフィアは期待したように、希望に満ちた表情である。
「そういえばレモニーフィアって、寿命はどうなんだ? 人と一緒なのか?」
混血だとどうなのだろうかと、疑問に思って問いかける。
「――どうなんでしょう? ある程度までは人と同じように成長して、止まるとお母さんは言っていたので途中から元の姿は固定されるのかなとは思います。混血の私が全盛期の姿で長く生きるのか、それとも人と同じ成長スピードなのかはまだその時にはなっていないか分からないです。だけど……お母さんの血を引いているので、人よりは長そうかなとは思いますが」
レモニーフィアはそう答える。
純血のファンタズーアスと違って、混血だと少し異なるらしい。そうなると同じ姿のまま街中で過ごすのは大騒ぎになりそうだ。そういうものとして認識されているのなら問題ないだろうけれど、下手したら危険視されるだろう。
とはいえ、ファンタズーアスは姿を変化させられるから、違和感がないように出来るだろうが。
「旅をするのも、此処に留まるのも、別の場所で暮らすことにするのもレモニーフィアの自由だけど、その時は気を付けた方がいいとは思う。それだけ特別な力を持っていると知られたら面倒な事態にはなりそうだから」
「世の中、良い人だけじゃない。力ある人に寄りかかるとか、よくある。レモニーフィアは珍しい力あるから、警戒するのいる」
俺の言葉に続いて、ネノがそう口にする。俺の言葉よりも、『勇者』として旅をしてきたネノの言葉の方が苦労してきた分、重みがある。




