森の中に住まう少女 ④
「それでもすごい。普通なら、こうやって変化出来ない」
ネノはそう言ったかと思えば、立ち上がり、体を変化させているレモニーフィアへと近づく。
「触ってもいい?」
興味津々と言った様子でネノが追いかければ、レモニーフィアは頷く。それを見てネノはぺたぺたとレモニーフィアの体を触り始める。
見た目の変化は実体を伴うもののようだ。
見せかけだけの変化であるなら、伸びた背の部分は触れてもすり抜けるとかあるのかなとい思っていたのだが……。
そうなると余計に不思議で面白いと思う。
ファンタズーアスと呼ばれる種族が全員、そういう特性を持っているとなると、噂になりそうだなとは思う。それでもこれだけ周りに広まっていないとなると誰も知らないうちに姿を変えたファンタズーアスが近くにいたりするのだろうか?
どのくらいの種族数がいるのかは分からないけれど、いつの間にか近くにその種族がいるのを想像するとなんだか面白いなと思う。その種族であるかどうかの判断方法など何かしらあったりするのだろうか? そういう情報を知ることが出来ればファンタズーアス探しのようなちょっとした遊びでも出来るのかもしれない。
まぁ、そういう判断方法などは教えてはくれないだろうけれど。
それに純血のファンタズーアスの魔女は人を警戒しているからこそ、娘であるレモニーフィアをあまり関わらせないようにしていたのだろうなとは思うし。
「すぐに、街行く?」
ネノはレモニーフィアから自分の体を離して、そう問いかける。
「……心構えをしてから、行きたいです。街って人が沢山いるんですよね? 見渡す限り人がいるとかそんな感じですか?」
「ん。いっぱい。近くの街、結構大きいから」
レモニーフィアの言葉にネノが答える。
レモニーフィアにとって街というのは、どういうものを想像しているのだろうか。村規模のものなのか、街というほどの大きな集団を想像出来ていないのか。
……なんだかあまり街のことを話さずに連れて行ったら良い反応をしそうだなと思った。
「レモニーフィア、街についてどのくらい知っている? 村とかも行ったことない?」
「何が違うんですか?」
「規模。村は小さい。皆、知り合いな感じ。でも街はもっと人、沢山」
「全然想像つかないです。というか、街ってそんなに人がいるんですか?」
レモニーフィアは呆然とした表情を浮かべている。それだけ人がいる場所を想像出来ないのだろう。
「それだけ多くの人と話すってことですよね……? 上手く喋れない気もします」
「別に大丈夫。それに街に行ったからって喋る必要ない。無言でも大丈夫」
レモニーフィアは人に会ったら喋らなければならないとそういう風に思っているようである。
「私も、『勇者』として旅してた時も必要最低限だった。それで問題なし。喋らない人もいっぱいいる。話したかったら喋ればいい」
そうネノが言うと、レモニーフィアは目を輝かせて頷く。ネノの言葉を聞いて、街に対して不安よりも楽しみを抱いているんだろうなと思う。
「レモニーフィア、魔女は亡くなった後、どうしてほしいとか言っていたのか?」
俺が問いかけると、レモニーフィアは答える。
「……好きにすればいいと言ってました。最期の時に、私の父親のことも少し話してくれたんですが、肝心なところが聞き取れなくて。どこかに父親につながるもの残してくれているとは思っていて。街にも残っているかなとも思っているんです。……お母さんからしてみると、私は人に見られたくなかったのかもとは思います。その理由が私の血縁上の父親にあるかどうかは分かりませんけど、それでも外は気になるなって。それに私も大きくなったから、お母さんも自分で判断していいって言ってくれたと思いますし」
そういう言い方をするに、その父親というのはまだ亡くなっておらず会える距離にいるということだろう。
それにしても魔女は色んな葛藤があったのだろうとは想像出来る。その父親から離したいのならばこの森ではなく別の場所に移動すればいい。よっぽどこの森に留まらなければならない理由でもあったのか。何かしらの思惑があってきっと悩んだのではないかとは思う。
そもそも子供を産むというのは女性にとっては大きな決断だろうし。
「父親の種族、なに?」
「ちゃんとは知らないのですが、でもお母さんの話を聞く限りは人だとは思うのですが……」
本当にちゃんと魔女は父親について語っていなかったのだなと分かる。やっぱり様々な姿に変化しているからこそ、見た目が人と異なる者と交わることもきっと出来るんだろう。それこそどんな種族とだって子孫を残せたりするのだろうか。
そうなると混血児が沢山増えそうだけど、子供ができにくいとか?
そのレモニーフィアの父親は、彼女の存在を知っているんだろうか。それに自分が交流を持った存在が魔女だと言われる人だということも。……そのあたりによって魔女の噂がどうしてこんな風に出回っているかの原因とか変わりそうな気もする。




