森の中に住まう少女 ③
「街に連れて行くのは問題なし。念のため、なるべく顔とか隠す?」
「隠した方がいいですかね?」
「魔女と似ているとかで、街の人、何か言ってくるかも。だから最初は隠しててもいいかも」
ネノはレモニーフィアにそう告げる。
確かにネノの言う通りにした方がいいかもしれない。現状、街では魔女に対して悪感情を抱いている者達ばかりなのだ。魔女が街の人々に関わりながら生きていたのならば顔を知っている者もいるだろう。
どれだけ魔女が街の人々と関わり合っていたか分からないし、魔女とレモニーフィアがどれだけ似ているのかも分からない。けれど用心はしていた方がいいだろう。
俺達が一緒ならばレモニーフィアに手を出させないようには出来るだろうけれど、最初からそういう要因がないようにしていた方がいい。
「そうなんですね。ではこんな風に姿を変えたらいいですか?」
レモニーフィアがそう口にした瞬間、その見た目ががらりと変わる。
薄水色の髪が、鮮やかな金色へと変化していく。その柔らかな垂れ目が、吊り上がった瞳へと変わる。それだけではなく身長さえもぐんと高くなり、大人の女性へと変化していた。
「えー。何それ!? レモニーフィアって、そんな風に姿を変えられるの? 魔法?」
それを見て真っ先に声を上げたのはメルである。
俺も驚いてまじまじとレモニーフィアを見てしまう。
「魔法じゃないです。特性で、姿変えられます」
そう言われて益々驚く。
特性ということはやっぱりレモニーフィアは人ならざるものなのだろうということが分かる。それにしても沢山の本は読んでいるし、宿を訪れた人々から様々な話を聞いているけれどそのような特性を持つ種族は知らない。
やっぱり世の中には、俺の知らないものが沢山溢れているのだなと実感した。
「特性って、どういう種族? 魔物? それとも人?」
「えーっと……私は私自身がどういう枠組みに入っているかは分からないです。お母さんと私のような種族のことはファンタズーアスと呼ぶそうですけれど……」
レモニーフィアの言葉に益々興味が湧いてくる。
それにしても母親とレモニーフィアがそのファンタズーアスと呼ばれる種族であることは分かったけれど、父親はどうなのだろうか? そもそも子を成す方法も普通なのだろうか? 人の形はしていても寿命が異なり、様々な姿に変化出来るとなるともしかしたら俺達の想像もできないような方法で子孫を生む可能性もあるだろうしな。
「初めて聞いた。面白い。ずっと変化出来る?」
「私は混血なので、ずっとは無理です。時間制限があってしばらく変化させているといつの間にか戻ってしまいますから。それにこの程度の変化は出来ますけれど、もっと大きな変化は出来ないです」
「魔女はもっと出来た?」
「はい。お母さんは長い時間姿を変化させられました。それに私よりもずっと大きな変化をすることが出来ました。お母さんは凄いんですよ。姿をずっと変えられるから、産まれた時の姿は覚えていないって言ってました。私と一緒に居る時はお気に入りの姿になってくれてましたけれど」
ネノの質問にレモニーフィアが答えていく。
なんというか聞けば聞くほど不思議な種族なのだと思う。少なくとも一般的には知られていない種族だろう。それにしてももっと大きな変化というと……人以外の姿にもなれるということだろうか。
メルのように本性はドラゴンだけど、人化することが出来る種族は少なからず知っている。それにラポナのように人の姿をとっているダンジョンマスターという種族も知っている。だけど、レモニーフィアの種族――ファンタズーアスという種族はそれらとはまた違うように感じた。
魔女が『勇者』と会うと危ないと娘であるレモニーフィアに伝えていたのを見るに、一般的には魔物に分類される種族なのかもしれない。俺達にとってはどっちの種族でも問題はないけれど。
ただこういう風に姿を変化させることが出来ると周りが知ったら、怖れたり、利用しようとしたり様々するだろうなとは思った。
それにしても混血という言い方からすると、子孫を残す方法は人と変わらないのかもしれない。
見た目は人としか言いようがないし、何らかの他の種族を父親に持ち、両方の特性を持つとかそういう感じなのだろうか?
先ほどの変化の時も、体の外に魔力は溢れていなかった。内側で変化させていくとかそういう感じなのだろうか? 本当に不思議な種族なのだろうなと思う。
ただ生まれながらの姿を覚えていないというのは、驚いてしまう。様々な姿形に変化出来るからこそ、どういう見た目をしているかどうかに関心がないのだろうか?
「凄い。もっと他にも色々変化出来る?」
「私は連続して変化は出来ないので、しばらくこのままです」
「そうなんだ。レモニーフィアが変化出来るのは、どの程度の範囲?」
「私は……元の姿が人の影響か、人の範疇でしか変化出来ないのですよね……」
レモニーフィアはネノの言葉に残念そうにそう口にした。




