表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/221

森の中に住まう少女 ②

「『勇者』!?」

 レモニーフィアは『勇者』という単語を聞いて、身構え、体をがくがくと震わせる。

「どうしたの?」

「ひっ、え、えっと……お母さんが、『勇者』に会うと危ないかもって言っていたので。あの……私を殺しに来たわけではないですよね?」

 ネノの問いかけに、びくびくしながらそう口にするレモニーフィア。

 何だかこういう様子を見ていると、つい先日リュアジーンの街で出会ったラポナを思い出す。ラポナの場合だとダンジョンマスターという魔物だからこそだったけれど……この子はどうして『勇者』と聞いてそういう反応なのだろう?

「違う」

「ならよかった……」

「なんで、そんなに怯える?」

「お母さんは……『勇者』はもしかしたら私達を殺すかもしれないと言ってました。お母さん、昔、『勇者』に狙われたことがあったみたいで」

 そんな言葉を聞くと、やっぱりレモニーフィアの母親である魔女はやっぱり長生きなのだろうなと思った。だってその人がレモニーフィアに語っていたのは過去の『勇者』の話だろうから。

 普通の人の一生を凌駕する寿命をきっと魔女は持ち合わせていたのだろう。レモニーフィアも同じように長命種なのだろうか?

「そう。私は狙わない。でもレモニーフィア、気を付けた方がいい」

「気を付けた方がいいとは……?」

「街で魔女――貴方のお母さんに対する悪い噂が広まっている」

 ネノがそう口にすると、レモニーフィアは驚いた表情になる。

 外と断絶した暮らしをしているからこそ、まさかそんなことになっているとは思ってもいなかったのだろう。

「どうして……?」

「理由は分からない。もしかしたら、誰かが意図的に流しているかも。魔女、どこかで恨みかってる?」

「……分からないです。お母さんが魔女と呼ばれて、周りに知られているなら誰かから恨みは買っているかもしれないですけど……。でも私にとって優しいお母さんでしたし、自分からそんなことはしないとは思います」

「ん。そういう性格でも、気づかないうちに恨み買うことある」

 ネノはそう口にしながら、じっとレモニーフィアを見ている。

「それか魔女や貴方に用事ある人が意図的に何かしているかも。そういう心当たりは?」

「分からないです……。私、ずっとお母さん以外とは話してこなかったので……」

 レモニーフィアは困った表情をしている。それにしても魔女は本当に、レモニーフィアを外に出そうとはしていなかったんだな。おそらく意図的にだとは思うけれど、何かしらの事情でもあるのだろうか?

 おそらくこの森で生きていけるだけの力はあるのだろうとは思うけれど、年下に見える女の子が森で一人暮らしは少しだけ心配にはなる。

「魔女の魔法のおかげでここまでやってこられる人は少ないとは思う。とはいえ周辺だけじゃなくて遠く離れた場所にまで魔女の噂が広まりつつあるから、何かしら対処はした方がいいんじゃないかな」

 俺がそう口にすると、レモニーフィアは考えるようなそぶりをする。

 これまで母親である魔女としか交流を持っていなかったのなら、余計に突然の言葉に戸惑っているのだろうとは思う。

 それにしてもおそらく何らかの意図があって魔女の噂を流しているであろうとは想像が出来るけれど、魔女本人が亡くなっていると知ったらどうするつもりなのだろうか? 正直、そういうよく分からない行動をする連中がどういう思考をしているかはぴんと来ないから全く分からない。

「対処……ってどうすれば。私、お母さん以外と会ったのレオニードさん達が初めてですし……」

「そうだな。まずは原因を探ることか。といっても……あれだな、レモニーフィアは急にそんなことをするのは大変そうだ」

 世の中良い人ばかりというわけではない。善人に見えても、そうではない人も多くいる。

 俺はそんなことを考えながらネノとメルの方を見る。

「ネノ、メル。俺達でその辺調べないか?」

「ん。いいよ」

「楽しそう!」

 俺の言葉にネノとメルが頷いてくれる。

「いいんですか?」

「問題ない。代わりに魔女の話を聞かせてもらいたいな。あとは魔法を見せてもらったりとか」

「宿のお客さん、なって欲しい」

 目を輝かせるレモニーフィアに、俺とネノは告げる。

「宿ですか?」

「ん。私達、宿やってる。宿開いて、情報集めする。レモニーフィアも、お客さんとしてくる」

 ネノが不思議そうなレモニーフィアに答える。

 元々魔女に会って話がしたい、お客さんにしたいと思ってきたわけだしな。レモニーフィアのお母さんである噂の魔女が亡くなっているのは残念だけどレモニーフィアをお客さんにするのも楽しそうだ。

 それに下手に魔女の娘だからといって、討伐対象みたいにされるより穏やかに過ごしている方がいいなと思うし。

「宿……。私、お店などに行ったことないです。もしかして、街に連れて行ってくれたりしますか?」

 レモニーフィアはそう言って、期待したように俺達のことを見た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ