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森の中に住まう少女 ①

「私、ネノフィラー。あと私の旦那さんと、弟分が居る。貴方、噂の魔女?」

 ネノが声に対して返事をする。

「……魔女?」

 魔女という単語自体に不思議そうな声を上げている。その声を聞いている限り、本当に魔女ではないのか、それともただ魔女と呼ばれている自覚がないのかのどちらかだろう。

「この森に長生きしている魔女、住んでるって噂。魔女に会いに来た」

 ネノがそんな言葉を続ける。それに対して扉越しにいる存在は、無言である。

「魔女じゃないなら、何?」

 そして続けられた言葉に、その声の主はしばらく黙って、そして答える。

「……その魔女、お母さんのことかもしれないです」

 そう口にされて、驚いた。

 魔女の噂は数多く流れているが、その中に娘に関するものは一切なかった。だから、その存在に驚きしかない。

「お母さんに……会いに来たならごめんなさい。お母さんは亡くなりました」

 そして続けられた言葉にはまた驚いた。

「そう。でも貴方と話したい。開けてほしい。駄目?」

 声の主である魔女の娘は遮断された世界で生きていたのではないかと思う。それに俺達のことを突然の訪問者として警戒するのは当然で、もし拒絶するのならば諦めて一旦ひくか……。

 そんなことを考えていると、ガチャリッと扉が開く。

 そこにいたのは、俺達と同じぐらいか、少し年下ぐらいの少女だった。

 薄水色の髪を二つに結んでいる。垂れ目で、どこか不安そうな様子は庇護欲を誘う。

 この少女が魔女の娘だといきなり言われてもすぐに信じられる人は少ないだろう。

「初めまして……えっと、中入りますか?」

 恐る恐るそう声をかけてくる魔女の娘に誘われて、俺達は中へと入った。

 元々親子で暮らしていて、来訪者もほとんどないのだろう。椅子は二つしかない。そういうわけで床へと四人で腰かける。

「私はレモーニフィアと言います。それでどういった御用ですか?」

 真っすぐにこちらを見て問いかけられる。

「俺はレオニード、こっちが俺の奥さんのネノフィラーと、弟分のメルセディス。俺達は旅をしていて、魔女に会ったことがないから会いにこようと思ってきたんだ。君のお母さんが亡くなっていたことは残念に思うけれど。レモーニフィアからお母さんの話を聞いてみたいと思うけれど、いいか?」

 怖がらせないように心がけてそう問いかける。

 それにしても二人暮らしをしていて、母親が亡くなるなんて本当に大変だったのだろうなと思う。

 こくりっとレモーニフィアは頷いた。

「私が出来る話は、私から見たお母さんの話なので……レオニードさん達が聞きたがっている話とは違うかもしれないです。それでも大丈夫ですか?」

「それで問題ないよ」

「ん。それでいい」

 俺とネノが頷くと、レモーニフィアは語り始める。

「私のお母さんの名前はレーシィア。年までは知らないです。私は物心がついたころから此処でお母さんと暮らしていました。お母さんは私を一人にはしたがらなかったので、基本的にずっと一緒に居ました。近くに街があることは知ってますが、私は行ったことないです。お母さんは姿を変えて街に顔を出したりはしていたみたいです」

 レモーニフィアのお母さんと呼ぶ声は、とても優しい声だ。それだけ母親のことが大切だったのだろうということが伺える。

 周りから恐れられている存在だとはいえ、立派に母親をやっていたんだなと思うといいなぁとも思う。

 それにしても魔女も、レモーニフィアもどういう種族なのだろうか? 魔女が長生きしていたのを考えると、人という枠組みとはまた外れているようには見えるけれど……。ただレモーニフィアに関しては見る限り人にしか見えないんだよなぁ。

 ただ前にダンジョンで会ったラポナみたいに、見た目が少女にしか見えない魔物というのは居るのは分かっているけれど。

「お母さんは薬の知識が凄くて、あとは魔法も得意でした。私はお母さんに魔法を幼いころから習っていたけれど、お母さんみたいに凄い魔法は使えなかったです。……そういえばお母さんが私が大変じゃないようにと魔法をかけたといってましたが、よく来れましたね?」

「ちょっと穴開けた。閉じているから、安心して」

「それは凄いです! 私だとお母さんの魔法をどうにかするって出来ません。世界は広いんですね」

 そう言いながら、眩しそうに俺達のことを見るレモーニフィア。

 もしかしたら外の世界へのあこがれが強いのかもしれない。聞いている限り、レモーニフィアは森の外にも一度も出たことがないだろうし、外を知りたいと思うのは当然だろう。

「レオ様とネノ様を基準にしちゃだめだよ! 二人とも人間としておかしいから。普通の人間はね、そんなこと出来ないんだから。森に充満している魔法も本来ならどうにもできないんだよ? まぁ、僕は出来るけどね」

 メルはそう言って、得意げな顔をしている。

「普通じゃない……?」

「そうだよ。だってネノ様は『勇者』だし、レオ様はそんなネノ様の夫だもん」

 なんでメルがどや顔でそんなことを言っているんだろうか。


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