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『勇者』の帰還 1

 『勇者』ネノフィラーは俺、レオニードの幼馴染である。

 生まれた時から共に育ち、十五歳の時に婚姻を結んだ。とはいえ、平民である俺達に姓なんてものはなく、ただ教会で婚姻の誓いをして共に暮らし始めたというだけである。

 賃金を貯めてから新居に引っ越そうと考えていた矢先に、ネノに『勇者』の聖痕が現れた。

 『魔王』が出現した事、『勇者』が選ばれるであろう事——それは承知していた事実であったが、まさか幼馴染であり、俺の奥さんになったネノに『勇者』の聖痕が現れるなどと思っていなかった。

 でも確かに、ネノは昔からただの村人でありながら強かった。特別だと言えるほどに強く、そんなネノに置いていかれたくなくて俺はずっと自分のスキルを磨いてきた。

 技能がスキルとして目に見える形で現れ、それを磨くことによって自身を高める事が出来るからこそ、俺は必死にスキルを磨いた。

 それもあってネノは俺と結婚してくれた。正直、ネノが結婚してくれた時、嬉しかった。ずっと好きだった初恋の女の子だったから。

 そんなネノが『勇者』に選ばれた時、俺もネノも戸惑った。

 だけど、ネノは真面目で『勇者』として選ばれたからには『魔王』を倒さなければと考えていた。結婚してまだ間もないのに『魔王』退治に出かけるなんてと躊躇いを見せていたが、俺が背中を押して『魔王』退治に行くように言った。

 正直、ネノの事を昔から見ていた身としてみればネノの『魔王』退治がそんなに時間がかからないだろうと思っていたのと、ネノが負ける未来が見えなかった。それに『魔王』退治に行ったからといって俺達の関係が変わるわけでもないし、やらなければならない事ならばさっさと終わらせた方が良いと思っても居た。

 新居探しは『魔王』退治が終わってからにしようと言った俺の言葉にネノは頷いて、「すぐ、終わらせる」とやる気に満ちていた。

 そんなネノが『魔王』退治の旅に出かけたのが、つい半年前。

 そして、半年後の今、もう『魔王』を退治し終えたらしいという話だった。



 そんなわけで俺は村で『勇者』ネノフィラーの帰宅を待っていた。





「それにしてもネノちゃん、半年で『魔王』退治終えるなんて流石だな」

「ネノだからな」

 同じ村の人間はネノがどれだけ強いのか、というのを身を持って知っている。小さな村だからこそ、皆が家族のように深い付き合いをしてきた。

 世間では『勇者』が『魔王』を本当に倒せるのだろうかなどと言った不安に包まれていたそうだが、この村ではネノが『魔王』を倒せないかもしれないなどという事は一切心配されていなかった。

 幼い頃からネノを知っているのでネノが『魔王』に負けるなどという事がこの村では想像さえも出来なかった。『魔王』退治のメンバーがネノの他に四人ほど居たが、正直ネノ一人でも『魔王』退治ぐらい終わらせられたのではないかと思っている。

 時折、ネノから送られてきていた手紙では順調に『魔王』退治が進んでいる事が書かれていた。ちなみにパーティーメンバーについては特に書かれていなかったので、噂ではネノに四人とも夢中らしいがネノは欠片も興味がないのだろう。

 ネノが他の男に心変わりする可能性は考えていなかった。惚気になるが、ネノは俺にべたぼれである。俺もネノ以外はいらないと思っていて、俺と同じ考えのネノが少し離れたからといって他に心変わりをするなどと思えなかった。

 一先ず、ネノが村に帰ってきたら先延ばしにしていた新居探しをしようと思っている。しばらくこの村でゆっくりしてからでもいい。そう考えながらネノの部屋の掃除をする。半年間主の居ない部屋だが、半年間綺麗にしていたので特に散らかってはいない。でも折角ネノが帰ってくるのだからしっかり掃除しておきたかった。あとは、ネノの好物を準備しておこう。

 掃除が終わった後に、村の裏にある山に入り、その山に住みついているドラゴンから尻尾の肉をもらった。あまりにももらい過ぎると尻尾がなくなるからやめてほしいと懇願されているためあまりもらいにはいかないが、今回はネノの帰還のお祝いだから多めにもらった。そのドラゴンが涙目だったが、とりあえず放置である。

 また山の中で必要になる食材を採取する。

 この山は魔物が多く生息していて、魔力が満ちている。それもあってかそれなりに危険だが、その分貴重な食材が多くある。この山は俺やネノにとって庭のような場所だ。

 村へと戻って、山で採取した物で特にいらないものを商人に売っていく。それだけでも結構な収入が手に入る。

 俺やネノにとっては庭のような山だが、他の皆にとっては簡単に入れるような場所ではないらしいのだ。

 それから家に戻って、食事の準備をしておく。

 今日帰宅するかどうかは五分五分だ。『勇者』が『魔王』を退治した日から王都に戻って、それからこの村までどのくらいかかるか計算すると大体今日ぐらいには帰ってくるのではないかという予感があった。

 もし今日帰ってこなかったとしても、《時空魔法》を使って保存すれば問題ないので先に準備しておく。

 半年もネノには会っていないので、早くネノに会いたい。そう思いながら準備をして待つ。しかし、その日はネノは帰ってこなかったので、食事は保存した。ドラゴンから連日尻尾肉をもらうのもなと思ったので、保存である。

 そしてその日は、二人用の大きなベッドで一人、眠りについた。

 その次の朝、俺は体に何かが乗っている事に気づいた。

 目を開けると、ネノが居た。

 俺の上で眠りについているネノ。

 ……通常であれば、誰かが来たら気づくのだが、おそらくネノが眠っている俺に気づかって気配を消して帰ったのだろう。起きている状態でおかえり、と出迎えたかったのにと思いながらもネノをまじまじと見る。

 安心したような表情で俺の上に乗って眠っているネノは相変わらず可愛い。

 ネノの頭を撫でる。

 ネノの目が開いた。

 そして俺の顔を見て、嬉しそうに言う。

「ただいま……レオ」

「おかえり、ネノ」

 俺の言葉にネノは笑みを零した。





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