森の傍の街 ③
森の魔女の元へ会いに行くことは決めたわけだけど、まずは準備をすることにする。正直ただ戦って勝てばいいというだけなら、特に準備もなく行くことは出来るとは思う。
相手がどれだけ力を持つ存在だったとしても、俺達三人ならおそらく大丈夫だろうから。
なので、俺達の行っている準備というのは魔女が弱っているなどの不測の事態が起きている場合の対応の手段についてである。
もし魔女相手に使わなかったとしても、この街で買える薬を購入しておくのは悪いことではないしな。
そういうわけで俺達は色々と買い込む。
そうやって色んなものを買いこんでいる俺達は、それなりに目立っているようだ。
「そんなに買い込んで何かと戦うのか?」
「どうしてそんなに買い込むんだ?」
そんな風に問いかけられて、俺達は適当にごまかした。
流石に魔女に会いに行くとなると、色々と面倒なことにはなるだろうから。
目の前で訝し気にしている街の人々は、きっと俺達が魔女の元へ向かおうとしているのを知ったら俺達に様々な反応を見せるだろう。
討伐しにいくと勘違いしている人は応援してくるかもしれない。
逆に魔女の手下だと勘違いした人は俺達を敵認定するかもしれない。
うん、何か色々そういうのは煩わしいなとは思う。
魔女もどうしてわざわざこれだけ大きな街の傍に住んでいるのだろうか。魔女と呼ばれるだけの存在ならば本当にどうにでも出来るはずなのに。
もしこれで魔女の住まうとされている森に行き、魔女も何も居なかったらそれはそれで街の人々に魔女が居ないことを告げて街の騒ぎを収めるのもありと言えばあり。そのまま放っておいていもいいけど。結局外からやってきた俺達が魔女は居なかったとかそういう情報を口にした所で信じるかも分からないし。
「魔女が居るなら、仲良くする。宿、やってもいいならやる」
「うん。そうだな」
魔女が許可をしてくれるなら、魔女をお客さんにして宿とはやりたいなぁ。それに魔女が人々に対して敵意があるわけではないのならば、この状況をどうにか出来るならした方がいいだろうって思うし。
魔女も、街の人々も含めてお客さんの方が平和的で楽しいしな。
メルに関しては特に魔女に質問したいことは沢山あるらしい。あまり他人に関心がないネノも、初めて会う魔女という存在に興味津々のようだ。俺も魔女ってどういう存在だろうって気になるし、長生きしている魔女だというのならばその話は聞いてみたいなとは思う。
そういうわけで、準備を終えた後……街の人々に悟られないように魔法を使いながら魔女の住まう森へと向かってみる。
魔女自体が危険だと噂されているのもあって、近づくものは少ないようだ。とはいえ、俺達が魔女の元へ向かおうとしたときに森の周りをうろうろしている人たちはいた。それはまだ若い男性の集団で、どうやら街のためにも魔女を倒さなければと勝手に画策している連中らしかった。
……普通に考えればあれだけの人数で、魔女に向かったとして勝てる見込みなどないと思う。
これで魔女が殺されそうになって反撃をしたらまた騒がれるのだろうか? そう思うと魔女も大変だなと思ってならない。
正直、自身の命を狙ってくる存在に対しては、反撃するのは当然だ。でもそれをした際に、周りから危険視されるといった話はそれなりにあるらしい。そういうのを煩わしいと思っている力を持つ存在はそもそも人里近くに住まおうなんてしないというのを本などで読んだことはある。実際に本に書かれていないような、噂にもならない所でひっそりと暮らしているような人もきっといるだろう。
そういう人たちにもいつか会ってみたいな。
森の周辺をうろついていた連中のことを観察していたのだけど、どうやら森に入ったものの魔女の元までたどり着けない状況のようだった。
「たどり着けないってなんだろうね?」
「メル、魔力ちゃんと見る。そしたら分かる」
メルが彼らに気づかれないように言った疑問に、ネノがそういう。
俺もネノも森に近づいて気づいたことだけど……この森自体に魔法がかけられている。
おそらくそのせいで先ほどの男たちは魔女の元までたどり着けないのではないかと思う。ただ感じている魔力は、とても心地よいものだ。
禍々しい魔力ではなく、どちらかというと穏やかで優しい魔力。
……この魔力の主が魔女だというのならば、おそらく害意を持った存在ではないのではないかと思う。そもそも森全体を覆う魔力を展開できるだけでもすさまじい魔力量だ。
やろうと思えば、最寄りの街一つ潰すことさえも簡単だろう。それをやらないだけ、魔女はまだ話が通じるタイプか、人に対して関心がないかのどちらかだ。人と関わりがあったことを考えると前者だろうけれど。
「魔力でたどり着けないようにしてる?」
「多分。無理やり行く?」
「来る人を拒む魔力はそのままの方がいいとは思うんだよな。だから受け入れてもらえるように働きかけるか。魔女本人なら中に入れる人を選別できそうだし。でもそれが無理ならひっそり入る形がいいかな」
俺がそう言うと、ネノとメルは頷いた。




