森の傍の街 ②
魔女というその名を聞いただけで、恐怖心などを抱く者の方が多いだろう。
もちろん、人々と心温まる交流を築いているような魔女も世の中にはいるだろう。だけど、そういう魔女と交友がある人達以外だと、悪い噂が流されればそれだけ心が揺さぶられてしまう。
「……まさか、魔女がこの街に襲い掛かろうとしているなんて」
「でもあの魔女がそのようなことを行うのか?」
――魔女の事があり、街は殺伐としている。
ただ魔女のことを擁護するような声もないわけではない。
そもそもの話、噂の魔女に関しては元々は知る人ぞ知る存在だったようだ。
街の近くにある森の中に住まい、薬の調合などが得意であり、時には人を救ったりもしていたようだ。
そういう点だけを聞くと、悪い魔女ではなく良い魔女なんだよなぁ。
「なんか、凄い長生きしてそうだよね? 人間の寿命だと思えないぐらい昔の話にも出てくるみたいだし」
メルは不思議そうにそういう。
俺達は泊っている宿の部屋で会話を交わしている。
確かにメルの言う通り、ここ数十年単位の話ではないんだよな。普通の人間だったらそんなに長生きは出来ないだろうという年齢から、ずっとその魔女は存在していたようだ。
そのことから考えるに、その魔女は人間以外の長命種であるか、魔物の一種であるか、それとも何らかの理由があって人間だけど長生きをすることに至ったかとか、そういう感じかなと思う。世の中色んな可能性があるので、その魔女が実際にどういう生き物かまでは分からないけれど。
「そうだな。もしかしたらメルよりも長生きしているかもな」
「それはあるかも! 僕ってまだ子供だしね。僕より長生きしている存在って沢山いるはずだもん。それにしても元々魔女がこのあたりに居たなら、別に今更魔女のことで騒ぐことではないと思うんだけどなぁ」
――魔女は、古くから森に住まっている。そしてその存在は今までは問題視されていなかったらしいのだ。それが急に危険だとか、排除すべきだとかそういう方向に反転した原因ってなんだろう?
そういうのって理由がなければ起こらないはずのことだ。そもそも魔女が力を持つ存在だというのならばこのような状況を放置している意味も分からない。
少なくとも危険だから排除をした方がいいと、そんな風な思考に街の人々は陥っている。
「レオ、考え事?」
俺がメルの言葉に考え込んでいるいると、ネノに問いかけられる。
少しだけ心配している様子でこちらを見ているネノが可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
なんというか色々と考えることが沢山あっても、ネノが笑っているだけで心が落ち着くというか、ネノが隣にいる効果って凄いなと毎回思う。
「魔女のことをちょっと考えてたんだ。この状況はよく分からないなって」
「何が分からない?」
「魔女がそれだけ危険で恐ろしい存在だったなら、もうとっくに街は滅んでいるだろうし、対応だって出来ている気がするなって」
「それはそうかも」
ネノは俺の言葉に頷いている。
そういう面倒な状況になった場合だと、考えられる対処方法としてまずはそういう問題から離れること。別の場所でも生きていけるのならばそのまま去るのも一つの手だ。あとは先ほど俺が言ったように力づくでどうにかする方法。煩わしいことを言われることが嫌なら黙らせればいい。
後々ややこしいことになるかもしれないけれど、大体が命の危険でも感じれば少しは大人しくなりそうだ。
「魔女って呼ばれているなら、きっと強い人。凄い魔法とか使えるのかも。強くても性格が大人しいとか?」
「いや、でもそだったら急に騒ぎになっていることへの説明がつかないんだよな。今まで出来ていたことが急に出来なくなっているって不思議だし」
「弱っているとか? 病気とか、あるかも」
「長年生きている魔女が病気になったりとかするのかな?」
「どうだろ? わかんない」
ネノが首を振る。俺も分からないのは同意である。
例えばメルみたいな高位の魔物だったならそもそも病気とかにはならないイメージだしな。ただ種族特有の病などはおそらくあるだろうけれど。そもそも調合などが得意な魔女なら自分で治せる気もするしなぁ。
「病気だったら治せるなら、どうにかしてあげたいよな」
「ん。魔女がどういう性格かにもよる」
「そうだな。一旦、魔女の居る森には行ってみるか。ただ街の人達にはばれないようにした方がいいだろうけれど」
「うん。下手に刺激すると、街の人達が暴走しそう」
「俺達のことも魔女に関連するからって排除しようとしてきたりしそうだしなぁ」
「私たちが治す、それだけで敵認定かも」
「それもそうか……。まぁ、どちらにしてもまずは魔女に会って話を聞くことだな」
「うん。そうする」
ネノは俺の言葉に頷いて、小さく笑った。
そういうわけでまずは、俺達はまずは魔女に会いに行くことを決めるのだった。