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冒険者の街からの旅立ちと、道中 ⑬

「道場破りしていいって言われたって何?」

 ネノも俺同様にメルが何を言っているか分からなかったのだろう。不思議そうな顔をしている。

「道場に通っている人たちと話してね、僕が戦いにいってもいいって! だから道場破りをしてくるの」

「それってただ模擬戦しようって言われているだけじゃないか?」

「僕が道場破りだって思ったら、そうなの!」

 正直、ただの模擬戦でしかないのだが……メルがそう思っているならそれでいいのだろう。

「そう。怪我させなければいいよ」

「うん! ネノ様、僕はちゃんと人間を怪我させないように手加減はするよ!! 怪我とか死んじゃうとかになったらレオ様とネノ様が大変になっちゃうもんね」

 分かっている、とでもいう風にメルがそういう。

 メルもなんだかんだ人の社会にすっかりなじんでいて、そのあたりが問題になるということは分かっているのだ。でもメルだけだったのならば――正直、その辺にいる人が死のうがどうでもいいと思っているだろう。ドラゴンであるメルからしてみれば、人のルールは正直言ってしまえば関係ないものなのだから。

 メルは昼と夜と忙しい食堂を開けている時間帯の間で道場破りに行くつもりのようだ。早速行こうとしていたので、俺が留守番してネノに念のため一緒に行ってもらうことにした。

 ネノもメルが何かやらかさないかというのは少し心配しているようだ。あとはこれからメルがお世話になるだろうから挨拶をしてくるつもりらしい。

「問題ないとは思うけど、念のため」

「そうだな」

 向こうもメルがドラゴンだとは知らなかったとしても、俺達と同行している存在だとは知っているだろう。だから滅多なことでは下手な行動は起こさないとは思っている。だけれども何事も例外はある。

 メルの見た目がただの少年にしか見えないからと何か起こそうとしている人もいるかもしれないし、そのあたりは俺達がちゃんと見ていた方がいい。

 そういうわけでその後、メルとネノは出かけて行った。俺は宿でお留守番である。宿泊客が宿にいる状況で、全員出かけるわけにはいかないしな。

 基本的に満室なので、新しく宿泊客を迎え入れることは難しい。宿泊の期間に関しては希望者が多すぎるので、大体一日のみの宿泊にしてもらっているけれど。それでどんどん回していても、まだまだ宿泊希望客が有難いことに多い。

 宿泊出来なかった客が食堂に流れてきているのもあって、食堂を開けている時間帯も大変混んでいる。夕食時の食堂を開ける下準備だけせっせと進める。

 街で珍しい食材なども手に入れてはいるので、それらを使って準備だけ済ませておく。

 そうやって過ごしていると、宿泊客の一人に声をかけられる。

「レオニードさん、いつも美味しい料理をありがとうございます。あの、一つ聞きたいことがあるのですけれど、いいですか?」

 その俺より少し年上ぐらいの男性は、最近武器屋で働き出すようになったと聞いている。

「なんですか?」

「魔女の噂を聞いたんです」

 そう言われた。

「魔女の噂? どういったものですか?」

「最近、このあたりに現れた魔物が魔女の手先だって」

「……それ、どこで聞きました?」

 俺達は魔物への対応をして、その原因となりそうな洞窟に魔女の本は確かにあった。だけれどもそのことはきちんと調べた上で対応した方がいいとは言ったのだ。そういう状況下で、魔女のことがあの魔物達と結びついた噂が流れているのはどうしてだろうか?

 そう思って問いかけたのだが、どうやらその噂は誰かから直接聞いたというよりもいつの間にか流されていて耳に入ってきたものらしい。

 俺に聞いてきたのは、俺達が魔物の対応をしたことは知っていたかららしい。

「本当に魔女が関わりがあることかは分からないので、話半分に聞いているのが一番かと思いますよ。俺もその噂の魔女が実際にどういう存在か知りませんし」

 俺がそう答えると、その男性はほっとした様子を見せる。

「魔女が関わっていると、心配したんですか?」

「はい。だって魔女って恐ろしいじゃないですか。噂で流れてくる魔女は街を滅ぼすだとか、人を捕まえて実験を行うだとか言われているんです。子供たちを攫われたりするんじゃないかと近所の人も噂していました」

 そんな風に言われる。

 宿屋の店主はそんなことを言っていなかったと思うので、一部でだけ囁かれている噂なのだろうか? どちらにしても魔女の噂がそれだけ多く噂されているのは何らかの思惑でも動いていそうだなと思う。

「本当にそんなことになったら、領主は対応すると思うので安心していいと思いますよ」

 一先ずそれだけ答えておく。

 それだけのことが行って討伐対象にならないというのはあり得ない。少なくともそれだけのことがあればすぐに捕縛なり、討伐なりされるだろう。

 それにしても洞窟に魔女の本があったことといい、こうして街で噂が流れていることも踏まえて、やっぱり噂の魔女には何かしらあったのだろうなとは思った。



 

 

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