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冒険者の街からの旅立ちと、道中 ⑩

 どうしてこんなところに本があるのだろうかと不思議に思う。

 ネノとメルも興味深そうな顔をしている。

「なんでこんなところに本があるの? 誰かの落とし物?」

 メルはそう言いながら、無造作に本を手に取る。何か危険物だったらどうするつもりなのだろうか。

 俺はそんなことを思いながら、メルに声をかける。

「メル、罠かもしれないのにすぐに手に取るなよ」

「んー? こんな本ぐらいでは僕はやられないよー?」

 メルはそう言いながら、俺に笑いかけている。メルに危険がないことを確認してもらってから、俺もその本に目を通してみる。

 そこに書かれていたのは、魔女という単語と実験に関する記述である。その記述が目立つように書かれていることに違和感を感じてしまう。

 表面上だけを見るのならば、魔女が実験を行うためにこちらを訪れたと見えるだろう。それにその実験は魔物が纏わるものなので、この本を読んだ人からしてみると魔女が実験のために魔物を集めたと思うかもしれない。

 ただこういう場所に思わせぶりに本が落ちているのを見ると、敢えて魔女に対して悪感情を持たせようとしているのだろうか? 単純に本当に魔女が暗躍している可能性も十分あるけれど。

「ネノはどう思う?」

「これだけだと、よく分からない」

「そうだよな。ただ魔女って、そう呼ばれるだけの存在がこの周辺に居るのならばもっと噂にはなると思うんだけど」

「ん。それはそう」

 魔女と呼ばれているということは、それだけ力を持つということ。

 良い意味でも悪い意味でも――きっと、周りから注目を集める存在であると思う。そもそも、流石に魔物に関する実験というものを行い続けていれば討伐対象にはなり得るだろう。力を持っている存在がそれだけ好き勝手してしまえば、周りから危険だと判断される。

 『勇者』であるネノだって、行動次第ではそういう風に判断される可能性だって十分あり得るのだ。もちろん、そんなことにはならないようには俺も対応するけれど。

 あの宿屋のおばあさんが言っていたことを俺は思い起こしてみる。

 これまで噂として出回っていなかった魔女についての話が、急速に広まり出した。これまで大人しく暮らしていた魔女に何らかの心境の変化があったのか、それとも周りが魔女を放っておかなくなったのか。

 少なくとも何らかの問題が起きて、魔女に纏わる何かが起こっているのではないか。

「敢えて魔女に魔物を集めた罪でも押し付けようとしているのかな」

「うん。あり得そう。私、魔女ってあったことない。でもイメージ的には、魔女と呼ばれる人、こういう行動しなさそう」

 魔女と呼ばれるにあたっては何かしらの理由がある。何か問題を起こして、ただ危険視されて排除されるだけだ。そうなってしまえばそもそも魔女と呼ばれることなんてない。ただ騒動を起こした危険な女性が居たとそう言われるだけである。

 ネノの言うように、魔女と呼ばれている人だからこそこういうことはしないようなそういう気はする。

 そういう女性が何かしら行動を起こすとするならばきっともっと大事で、国中に広まるようなことを行うような気はする。

「例えば誰かが魔女に何か押し付けようとしているとして、噂が出回り始めている魔女に何かしようとしているのかな」

「それもあるかも。正義感ある人、そういう魔女、討伐しなきゃって動きそう」

 ネノはそんなことを言う。

 俺は確かにそうだなと思う。

 冒険者の街の自称勇者達にも言えたことだけど、自分が行っていることが正しいとそう思い込んでしまう人というのは驚くぐらいに行動に躊躇がない。俺に対して『勇者』であるネノに相応しくないと言っていた人たちも、別に悪意があるわけではなく本当にそうだと思い込んでいたからこその行動だっただろうし。

 こういう本に書かれている内容が多くの人の目に触れられてしまえば、対処すべきであると判断する人たちが多く出そうな気はする。

「この本のことは報告はするとして、中身を真に受けないようには注意しておいた方が良さそう」

「うん。それがいい」

「魔女が実際に問題がある人物だったらその時は何かしら対処をするか」

「うん。そうする。危険なことやろうとしているなら、放置はしない」

 そんな会話をした後、さらに周辺を探索をした。魔物を引きつけようとしてした魔力の痕跡は見かけた。それはとてもわかりやすいものである。そもそもこれだけ痕跡を分かりやすく残しているのが、やっぱり敢えて行っているようには思えた。

 報告をする際にはやっぱり魔女に対してはちゃんと調べた上で行動をした方がいいというのは言っておいた方がいいと判断する。

 やってもないことをやったと判断して、魔女へと特攻すれば下手したら大変なしっぺ返しを食らうだろう。

 魔女だと呼ばれる存在は、それだけ特別で力を持つものだろうから――。

 でも多分、あまり深く考えないような人はこういう本を見たら突撃するんだろうなとも容易に想像が出来た。



 街へと戻って、宿の店主へ報告するときちんと調べると言ってもらえた。



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