冒険者の街からの旅立ちと、道中 ⑤
一つの街に到着する。
その村は、俺達の生まれ育った村と同じぐらいの小さな村だ。こうやって外から人がやってくることも少ないのだろう。
だから俺達のような旅人が珍しいようで、色々と質問をされる。
こうやって旅をしている人というのは、冒険者や商人が多い。俺のように《時空魔法》を使うことが出来なければ移動式宿屋なんて出来ない。だからなんというか、村の人たちからしてみれば俺達が何をして生計を立てているのかは疑問だったようだ。
特にこういう街でネノが『勇者』であることを大々的に言うつもりもなく、宿をやっているというのだけを伝えておいた。
村には銅像のようなものがあり、それについての逸話を聞いた。
「昔、このあたりで恐ろしい魔物が現れたんだ。その魔物によって村は滅びの危機に瀕していた。しかしその時に現れた戦士がこの村を救ってくれたんだ!!」
意気揚々とそんな風に村の男性は語っていた。子供達もそれに続くようにその戦士の話をしてくれる。
この村にとってはその戦士は英雄のような存在なのだろうなと思う。こういう風に偉大な功績を称えられて、銅像のようなものが残されることはそれなりにある。というか、王都の方ではネノの銅像も建てられているらしいんだよなぁ。歴代の『勇者』の出身国では、その功績を正しく後世に残す必要があるだとかそういう風に世界の認識として言われているのだ。
過去に『魔王』を倒した『勇者』などは用済みだとばかりに酷い裏切りをした国は、その後、大変なことになったらしい。というか『勇者』という特別な力を持つ存在だからこそ、裏切りなんてことをしたら報復されるのも当然なんだけどな……。
「王都行ったらネノの像とかも見たいな」
「ん。どうせなら、レオのも建ててほしい」
「俺は『勇者』じゃないから像なんて立たないと思うけど」
「活躍すれば出来るはず。どうせなら、レオと一緒の方がいい」
王都に行ったらネノの像を見たりもしたいなと言ったら、そんな風に言われる。
像を建てられるだけの功績を残さなければ、そういうのは建てられることはないだろう。とはいえ折角なら俺もそのくらいの功績を残して、一緒に像が並べられたら楽しそうだなとは思う。
『勇者』の功績は周りに広められている。だけど『勇者』のような世界の英雄ではなく、一部の地域でだけ崇められている英雄というのも確かにいるのだ。
その村では野菜を多く生産しているらしい。あとは蚕を飼っていて、その糸から衣服を作ったりもしているようである。
野菜を多く使った料理を振る舞ってくれたので、美味しくいただいた。
代わりにこのあたりではとれない果物などを渡して置いた。こういう小さな村だと、金銭でのやり取りというより物々交換が基本だろうから。
小さな子供たちに関しては外の世界に対して興味津々な様子だった。
「僕が魔物を倒した!」
メルがそう言って説明をしているのだが、子供たちには信じられていなかった。
自分と同年代の子供がそういうことを出来るとは思えないからだろう。メルは成体になるまでの間は、人化している時に子供扱いされ続けるんだろうなとは思う。成体になったメルはもっと背が高くなって、美形に育つ気はする。そういう姿を見れないことは少し残念だ。
近くに川が流れていて、そこには水車が設置されている。のどかな光景を見ていると、何だか楽しくなる。
その村で少し過ごした後、すぐに違う場所へと移動することにした。
その最中に魔物の群れを見かけた。
「レオ様、ネノ様、なんか大量にいるね!」
おそらく何らかの要因から、魔物が繁殖したのだろうとは思う。そのまま猿のような姿の魔物を放置していると先ほどの村を含む周辺の集落が壊滅する可能性がある。
そのまま放っておくわけにもいかないので、それらを倒しておくことにする。
ネノが魔法を使って、彼らの動きを封じる。そして次の瞬間には、絶命させる。
それはほんの数秒の出来事である。
「この魔物、食べれるところ少なそう」
「そうだな。素材には出来るけど」
ネノは少し残念そうにしていた。
魔物の種類によって、食用に向いているか向いていないかは差異がある。猿の魔物に関しては、食べられる箇所が少ない。一応、魔法具などには出来るだろうが。
どうせなら食用に出来る美味しい魔物の方がいいなと俺は思っているので、そういう魔物に遭遇する方がよかったなと思った。
「ちょっと周辺の魔物を狩ってから進むか」
「それがいいかも。村が被害、嫌」
折角良くしてもらったし、過ごしやすい村だったのだ。そこが壊滅してしまうというのは嫌だと思う。
そういうわけで周辺で危険な魔物が繁殖していたら倒してしまおうと周辺を見て回った。
繁殖していたのは先ほどの猿の魔物だけだったようだ。他にも魔物は狩っておいた。
――そしてそれからまた、村をいくつか経由して一つの街へと俺達は辿り着く。




