冒険者の街からの旅立ちと、道中 ④
夕食を終えた後、外で寝転がりながら星を見上げている。
お腹いっぱい食事をとって、そしてのんびりとするのも楽しいことだ。
メルは遅い時間でもまだまだ元気で、周辺を見て回ると言って走り回っている。あまり遠くに行かないようには言っておいた。
「メルは元気だなぁ」
「ん。元気」
そんな会話をしながら二人で寝転がって星空を見上げる。
今日は天気がよく、星がよく見える。煌めく星座には、神に関連するものも多い。
当然、『勇者』に加護を与える女神――ヒアネシア様の言い伝えに纏わるものもある。
これまで歴代の『勇者』達に加護を与えてきた女神は、俺達にとってなじみ深く、良く伝え聞く神様だから。
「『勇者』として旅する時、レオみたいに家、運べないから野営してた」
《アイテムボックス》は作って渡していたけれど、ネノは家を運べるほど《時空魔法》が使えるわけではない。だから旅する中で不便さはそれなりにあったのではないかと想像はつく。
「やっぱり魔王城に近づけば近づくほど、野営も大変だった?」
「うん。魔物、増えてたし。夜に襲い掛かってのも居た。頭のいい魔物、テント、焼こうともしてた」
俺は魔王城に近づいたことも、見たことも現状はないのでどのくらい危険だったかは、こうやってネノから聞いた情報しか正確には分からない。
それにしても知能が高い魔物かぁ……。そういう魔物は厄介だよな。
メルやラポナのような実際に人と同じように思考が出来る魔物を知っているからこそ、そういう魔物が人と敵対していたら大変だというのは想像が簡単につく。
「そういう魔物、『勇者』を殺したがる。だから、第二王子たち放置で、こっちばかり狙ってた。でも全部倒した」
ネノは簡単にそう言ってのける。
「流石、ネノだな」
「ん。死んだら、レオの元へ帰れない。それだけが嫌だったから、自分の命大事にを第一に『魔王』討伐した。『勇者』としての旅の時は、こうやって星を見たりもあんましなかった。レオ、居ない時に見てもそんなに綺麗だって思えない」
ネノはそんなことを言いながら、隣に寝転がる俺のことを見る。目が合うと、ネノは嬉しそうに笑っている。
「レオが隣にいると、綺麗なものもより一層綺麗に見える」
そんなことを言うネノはやっぱり可愛い。
こういうことをまっすぐに言ってくるからネノなんだよなぁと思う。
ネノの方へと手を伸ばして、寝転がったまま抱き寄せる。左腕の上にネノの頭を乗せる。ネノはされるがままで、楽しそうにしている。可愛い。
「俺もネノと一緒の方が、いいって思う」
「うん。一緒!」
そう言いながらネノが俺に顔を近づけてきて、キスをしてくる。多分、キスしたくなった気分なのだろう。
そのまま俺からも口づけを落としていく。ネノが可愛くて仕方がないから、幾らでもキスしたくなるんだよなぁ。
「レオと、キスするの、好き」
「うん。俺も」
「レオ、大好き」
「俺も、大好き」
しばらく口づけを交わした後に、またのんびりと会話を交わす。ひっついたままである。
「魔女、綺麗な人多いって聞く」
「まぁ、確かにそうだな。なんか言い伝えとかの魔女って、噂になるような美女とかが多そうだよな」
ネノの言葉にそう答える。
確かになんとなく聞いたことがある言い伝えだと、魔女は見た目が良い女性ばかりだ。俺もイメージ的には魔女は美女で思い浮かべる。それだけこれまで魔女と呼ばれてきた女性がそういう人たちばかりだったのだろう。それに多分、見た目が良いというだけで噂になる一つの要因になるだろうからな。
「うん。魔女の中には、異性、誘惑する人もいるって聞いたことある。レオを誘惑するなら、即座に消す」
ネノが物騒なことを口にしている。俺を誰かに渡したくないという感情でいっぱいなのだろう。そういう所も可愛い。
「俺は例え誘惑されても大丈夫。俺にとってネノが一番だから」
こんなに可愛い奥さんが居るのに、他の女性に靡くとかまずありえないしな。
とはいえ、ネノからしてみれば俺が誘惑をかけられるというそれだけでも目の前で起こったら嫌なのだろうけれど。
「そういう問題がありそうな魔女だったら観察だけして帰ればいいしな」
「それもそう。魔女、問題なくて、お客さんになる子ならいいけど」
「そうだな。仲良く出来る性格の魔女だったらいいよなぁ」
上手く隣人づきあい出来る程度の性格の魔女ならばいいなとは思う。それならばその魔女と交渉して、近くで宿をやらせてもらえるし。
急に噂が出回り始めたと宿屋のおばあさんは言っていたので、何かしら問題を抱えている魔女の可能性はあるけれど……。
「ネノは急に噂が出回るってなんだと思う?」
「分かんない。本人が噂になるような何かをしたか、周りが意図的にやっているかだとは思う」
どちらにしてもその魔女に実際に遭遇すれば分かることだけど、どういう理由なのだろうと考えても分からなかった。