冒険者の街からの旅立ちと、道中 ③
「あ、レオ様、ネノ様!!」
魔法が打ち上げられた方角へと向かえば、メルが巨大な豚の魔物の死骸の上に座り込んでいた。
襲い掛かられて倒したのであろう。
その豚の魔物に関しては食べると美味しいものなので、メルにどけてもらって解体をする。それにしても遭遇したのがメルだったから問題はなかっただろうけれど、中々凶暴そうな魔物だ。普通の人ならば突進などされただけでもひとたまりもないだろう。
俺達は目的地に速くつくからという理由だけで、獣道を突っ切ってはいる。とはいえ、このあたりは街道からもそれなりに近い。そういう場所にこのような魔物が居るだと被害に遭う人も多そうだと思う。
寧ろ人の事を餌だと認識して、街道近くをうろついている魔物もそれなりにいるからな。まぁ、そういう魔物に関しては大抵、すぐに対処されるわけだけど。
「ねぇねぇ、レオ様。この魔物って美味しいの?」
「美味しいぞ。普通に焼いても美味しい、煮込んでもいいし。ああ、でも鍋にも入れるか」
「鍋するの?」
「ああ。ネノが食べたがっているから」
俺がそう言ったら、メルも鍋を食べたい気分だったようで嬉しそうに笑っている。
「じゃあ、もっと食材になりそうなものを狩ってくる!」
そう言って、そのまま魔物を狩りに行こうとするので一旦止める。折角合流したのに、また別行動をしようとしないでほしいなと思う。
「メル、一旦ストップだ。また迷子になろうとするな」
「はーい」
メルは俺が止めると元気よく返事をする。
「鍋楽しみだなぁ。僕、いっぱい食べるから、沢山作って欲しい!」
「ああ。多めには作るぞ」
どうやら鍋を食べる時のことを想像しているのか、涎が垂れそうになっている。ネノが飽きれた様子でハンカチで、その涎をふき取ってあげている。
「そういえば、釣りではなんか釣れたの?」
「ん。美味しそうな魚釣れた。それもレオが鍋に入れてくれる」
「そうなの? それだけ食材が色々入っているなら美味しそうだよね!」
ネノの返答を聞いて、メルはにこにこしていた。
それから俺達はまた足を進めていくことにする。途中でメルが面白そうなものを見つけるとすぐに飛び出そうとするので、ちょくちょく止めた。
そうしているうちにあたりは暗くなっていった。
《時空魔法》から家を取り出す。ただ折角なので、料理は外で行うことにした。その方が楽しそうだかならな。まぁ、家で食べたとしてもネノと一緒ならば楽しいことには変わりないけれど。
ネノとメルと一緒に鍋の準備をする。
木の枝を集めてもらい、そこに魔法で火をつけてもらう。
鍋に洗浄した水を引いて、味付けを済ませて火をかける。その後、切り分けた食材を次々と入れていく。
大きめの鍋を使っているのは、メルが宣言通り沢山食べるだろうなと想像が出来たからだ。三人分とは思えないほどの量だろうけれど、まぁ、余ることはないだろう。余っても《時空魔法》でしまうことはできるし。
「レオ様、まだー? 僕、早く食べたい!!」
火をかけている最中にメルはもう我慢できないといった様子でそんな声をあげていた。
「もう少し待て」
メルならば肉や魚が生のものでも食べても問題ないだろうけれど……、それでもまぁ、一番美味しい状態で食べて欲しいと思っているのでしばらく待ってもらうことにする。
うずうずした様子でメルは鍋をじっと見ている。ちなみに何も言ってはいないけれど、ネノも早く鍋を食べたいのだろう。じっと待ちながら、じーっと鍋を見ている。
そうやって待ち遠しそうにしている様子が何だか可愛くて、俺は思わず笑ってしまう。
こういうネノの何気ない言動を見ているだけで幸せだと感じる。というか、毎日、ネノは可愛いんだよなぁ。何をしていてもその可愛さが隠せないというか……。
じっとネノを見ていると、目が合う。
「どうしたの?」
「ネノは今日も可愛いなって」
「ありがとう。レオもかっこいい」
そんなことを言うネノは、やっぱり可愛い。
具材に火が通るのを待つ間、ネノを抱き寄せて口づけをする。メルは「もー! 僕が居ない所でやってよ!」といつものように顔を赤くして文句を言っていた。
そうやって過ごしているうちに、鍋が出来上がる。
ちなみに米も炊いておいた。白米と一緒に鍋を食べるのは美味しいのである。
ネノが釣った魚と、メルが狩った肉と、あとは《時空魔法》にしまってあった野菜類とキノコ類などをふんだんに入れている。
具材に味がしみ込んでいて、美味しいんだよな。
体が温まって、空腹感が満たされていく。
「美味しい!! 僕、これ、幾らでも食べられる」
メルはそんなことを言いながら、勢いよく鍋を食べている。
「ん。美味しい」
ネノも満足気に笑っている。
俺も出来たての鍋を口にして、美味しくて頬が緩んだ。
美味しいものを食べると自然と表情が柔らかくなるものだよなぁ。こうやって三人で鍋を食べながらのんびり過ごすのも良いものだと思う。
メルは思ったよりも沢山食べていて、想像通り鍋はすっかり空になっていた。