冒険者の街からの旅立ちと、道中 ②
しばらく釣り糸を垂らしながら、魚がかかるのを待つ。中々、食いついてくれない。
そう思いながら待っていると、ネノの持っている釣り竿が勢いよく引っ張られていた。
「来た」
ネノは嬉しそうに小さく笑ったかと思えば、魚に負けずに釣り竿を引っ張る。そして、次の瞬間、青色の鱗に包まれた俺の顔よりも大きな魚が釣れた。
「レオ、これ、美味しいやつ?」
「調理したことないから分からない」
その魚は俺が調理したことのない種類のものだったので、美味しいかどうかの判断はつかなかった。
「メル、これ、毒があるか確認してみて」
「はーい」
落書きをしていたメルは元気に答えると、その魚を生のまま丸かじりしていた。
「美味しいね。毒は、なさそう!!」
メルが元気よく答えた。
魔法で消毒もするつもりだけど、初見の食べ物に関してはメルに毒見してもらうのが一番楽だからな。メルは基本的に人体に害があるものでも気にせず食べられるし。
「同じ魚、釣れたら食べる」
ネノはそう言って、また釣り糸を垂らし始める。
メルは丸かじりして全部食べてしまったので、もう一匹釣らないと食べれないのである。
とはいえ、同じ魚を狙っても狙ったように釣れないものだ。その後は違う魚が次々と釣れた。メルの釣り竿も引っ張られていたが……落書きをしていたため、そのまま勢いに任せて釣り竿が川に落ちてしまった。
メルは「あ、待って!」などといってそのまま川に飛び込み、釣り竿を回収していた。それと同時に魚も手づかみしていた。
それからしばらく、また釣り竿が川へと落ちないようにメルは大人しく釣り竿を見ていた。が、やっぱり飽きたらしく、釣りをやめてその釣り竿は《アイテムボックス》にしまっている。ネノが作ってくれたものだからという理由で取っておくつもりらしい。
「レオ様もネノ様もよく飽きないよね。僕、周りを探索してきていい?」
俺とネノは引き続き釣りをしているのだが、メルはそう言ってつまらなそうにしていた。
「行ってきていいぞ」
「迷子、なったらなんか魔法使って。そしたらそっち行く」
俺とネノがそう言ったらメルは勢いよく頷いていた。
「メル、何処まで行くかな」
「遠くまで行くかも。メル、何も考えてない」
俺の言葉に、ネノがそう答える。
確かに、メルは結構考えなしで行動を起こす性格なのでどこまで遠くに行くかは想像がつかない。
遠くから戦闘音みたいなのが聞こえるのは、メルか? それとも冒険者たちでもいるのだろうか。メルが暴れまわっている可能性も十分あるけれど。
「ネノはどんな料理食べたい?」
「レオが作るの、全部美味しい。でも……今の気分は、鍋とか?」
釣った魚でどんな料理を食べたいかと問いかければ、ネノにそう言われる。
鍋か。
鍋も美味しいよな。このあたりは寒くはないけれど、本で、寒い地域で食べる鍋は別格だって聞いたことはある。まぁ、寒いとか関係なしに、ネノが鍋を食べたいなら作ろう。どんな味付けしようかな。
「他に入れたい具材あるか?」
「野菜類とか。味付けは任せる。鍋、楽しみ」
特に他に希望はないようで、そう言ってネノは笑っている。
「あ」
勢いよく、ネノの釣り竿が引かれる。先ほどよりもずっと大きな引きである。というか、どこから引っ張っているのだろうか?
そう思っていると、川に大きな影が映る。そのまま釣れたのは、巨大な魚である。ちなみに牙も鋭く、勢いよくそのまま……ネノに襲い掛かろうとしている。ネノはその魔物に対して魔法で息の根を止めていた。
「レオ、これ、美味しい?」
「前に本で読んだことある。鍋にも合うはずだ」
その魚の魔物に関しては、本で読んだことがあった。凶暴なため、捕まえる時に大変だとは書いてあった。誤って釣ってしまった際に、犠牲になったものもそれなりにいるとのこと。だからこそ、釣りをしていて危険を感じたら釣り竿を離して、身の安全を確保するようにとは言われている。俺やネノのように対処できるならともかく、対処できない人がこういうのを釣ったら大変だからな。
「よかった。楽しみ」
そう言って笑うネノが可愛くて、俺も笑う。
ネノがこれだけ楽しみにしているのならば、気合を入れて夕食は作らなきゃなと思う。
夕食時までは時間があるので一旦、解体だけ進めて《時空魔法》で保管しておく。
その後はまた釣りをした。いっぱい魚が釣れて俺は満足である。ちなみにそれなりに長い時間を釣りに費やしていたわけだが、まだメルは帰ってきていない。
「メル、探しいく?」
ネノにはそう聞かれたけれど、行き違いになっても困るのでその場にとどまることにする。
それからネノと周辺の果物などの採取をした。このあたり、結構おいしそうなものがいっぱいある。あとは山菜とかも。
そういうのは取っておくとあとから使えるからな。
さて、そうやって過ごしていると……遠くで魔法が打ち上げられた。
おそらくメルだろう。そういうわけで俺達はその魔法が打ち上げられた方へ向かうことにした。