店づくり 2
まずはどのような間取りにするかどうか、というのをネノと共に話し合いをする。
「一階は食堂でいいだろう」
「うん」
「宿っていうなら、二階か三階建てぐらいにするか?」
「三階……それもあり」
「客室どのくらいにしようか?」
「うーん、6~8ぐらい? そのくらいで、いい、思う」
一階は食堂にするとして、何階にまでするか、客室をどうするか。宿を建てる上で、重要だろう。あとは浴場をどうするか。安い宿だと風呂はないみたいだけど、俺達の家には風呂を完備しているし、宿もやるなら風呂完備したい。そういう願望がどんどん沸いてくる。
メルは話を聞いていて飽きたのか、ソファに寝転がっている。人の姿のまま寝転がっているのは何故だか知らない。
「風呂、いるよな」
「ああ、そうだね。作っておきたい。……一階、食堂と風呂。二階、三階、客室? あとはトイレを各階につける」
無地の紙を取り出して、それにネノが間取りを書いていく。ちなみに俺はそういうのを構築する能力はない。この家を建てる時も間取りを考えたのはネノだし。俺もネノもそれなりに出来る事が多いほうだけど、得意不得意はやはりあるのだ。その得意不得意を互いに補っていけれるのは何だかいいなぁと思う。
ネノがすらすらと書いた間取り。俺はそこから改善点は見いだせなかった。なので、その案のまま、作っていこうという話になった。
宿を建てる際の素材をどうしようか、となったのだが、ログハウス仕様にして魔法を使って防御力を高めようという話になった。どんな攻撃も利かない家にするのには、魔法を使えば出来るだろうから。
「じゃあ木を調達するか」
「買うより、調達の方が安上がりだよね」
二人してそう言いながら椅子から立ち上がると、ソファでごろごろしていたメルが『どこ行くの!? 僕も行く!』と起き上がった。別にそのままソファで眠ってもらっていても問題はなかったのだが、ついてきたいらしい。
「メル、何で、人の姿のまま?」
『慣れるため! 僕、この姿でなるべく過ごそうと思って』
「何で?」
『お店やるんでしょ!? 僕手伝いたいもん』
メルは宿を手伝う気満々のようだ。宿屋がどういうものかとかもどれだけ分かっているかも定かではないのに。
まぁ、メルが手伝うのならば人件費削減できるからいいか。
そんな事を考えながら家の外に出れば、人だかりが出来ていた。俺がここに家を出した事、ドラゴンを連れていたこと、あとはネノが『勇者』な事も含めて注目を集めてしまっているのだろう。
ちらちらとこちらを見てくる瞳は、少しだけ面倒だ。話しかけようとしてくる人が現れる前に俺達はその場を後にする事にした。
「ネノ」
「うん」
ネノは俺が名を呼ぶと、頷く。
俺が何をしてほしいか、それを瞬時に理解したネノは魔法を行使する。
「《浮遊》」
それだけを口にする。それと同時に俺とネノ、あとメルの体が浮遊する。ネノは風属性の魔法も得意だ。レベルが高いからこそ、こうして体を浮かせて空を舞う事だって出来る。ネノはそのまま魔法を行使して、俺達の体を運ぶ。あっと言う間に体は上昇していった。
この魔法は制御が難しい。少しでもミスをすれば、大変なことになる魔法だ。そういう魔法を簡単にネノが出来るのは、『勇者』だからというよりも、それだけの努力をしてきたからと言えるだろう。
俺の《時空魔法》も一歩制御を間違えると、大惨事になる。中に入れていたものが木っ端微塵になっていたりとか――、当初うまく使えなくて折角収納していたものを駄目にした事もあった。魔法は便利な分、制御は難しいものだ。
「――レオ、森、行こう」
「ああ、木の伐採だな」
「うん」
ネノが手を伸ばしてきたので、俺はその手を掴む。手を繋ぎながら、ネノの魔法に身を任せている。その傍でメルが呟いている。
『風の魔法で自由自在って……、本当、ネノ様って規格外だよね。というか、僕は自分で飛べるんだけど』
ネノはその呟きを聞いても、メルも自分の魔法で森まで連れていく気満々と言った様子で、魔法を解かなかった。
「伐採しすぎは森に悪い。だから、ちょっとずつ、場所を変えながらしよう」
「そうだな」
飛びながらのネノの提案に、俺は頷く。あまり森で伐採しすぎても森に悪い。そこまで考えて場所を変えながら伐採すべきだろう。
「到着」
「ありがとう、ネノ」
ネノが俺達を森へとおろしてくれる。ネノにお礼を言って、頭を撫でればネノは微笑んだ。
やっぱりネノの笑顔を見ると、何だか幸せな気分になった。
森は街から少しだけ離れた場所に存在している。そこまで面積の広くない森だ。その森の中にはもちろん、魔物が少なからず存在している。それもあって木こりも伐採の時には冒険者を雇って伐採をするものらしい。まぁ、俺とネノには魔物が居ようとも関係がないけれど。
それからネノとメルと一緒に、伐採作業を開始した。




