魔の申し子 4
「こんな風に《時空魔法》で他人の魔法を管理下におさめるのは大変ではないか? 制御を誤れば空間内で魔法が暴走するなどということがないのか?」
「昔はありましたね。《時空魔法》に魔法をしまわせてもらうことを考えた時に、失敗は何度かありましたし」
魔法を《時空魔法》でしまおうと考えた時に、最初の頃は失敗もあった。俺は最初から魔法を上手く使いこなせるような性能があったわけではない。このあたりは何度も試してみた結果、こうして様々な魔法を使えるようになったわけだけど。
「そうなのか。それにしても《時空魔法》とは多様な使い方があるのだな。なんと興味深いことか。他にはどのような使い方が出来るのだ?」
ジュデオンさんはそう言いながら、目を輝かせている。
「魔法以外の物も様々に収納が可能です。建物なども収納することが出来ますね。それだけ自由に出し入れできるからこそ宿をしながら旅をしようと思ったのですけど」
「……建物ごと収納できるというのも異常だな。《アイテムボックス》とは異なって調整を自身でしなければならないだろう。それを出来るというだけでも素晴らしい魔法の技術だ。国に所属している優秀な魔法使いの中にも、派手な魔法で魔物を倒すことは出来ても細かい調整は出来ないものは居る」
「そうなんですか? 国に所属している魔法使いとなると、とても優秀な方たちばかりだと想像してましたけど」
ジュデオンさんはこの国に仕えている優秀な魔法使いである。彼の語る国に所属の魔法使いは国内でもエリートな分類に入ると思う。そういうエリートな人たちのことは俺は一介の村人なので、よく知らない。まぁ、ネノが『勇者』に選ばれたからこそこうして『勇者』パーティーのメンバーと交流を持ったりしているけれどそれ以外は知らない。
……そう考えると、俺は『勇者』として旅をして世界を見てきたネノよりもずっと世界を知らないなぁと実感する。
「当たり前だろう。……お前達夫婦を基準にするべきではない。ネノフィラーもだが、君も大概おかしい。私は魔法を嗜む者として多くの魔法使いを見てきた。その中でもネノフィラーは別格だった。それは『勇者』だからというよりネノフィラーだからこそだと言えるだろう。それはレオニードにも該当する。『勇者』の伴侶だからといって全員が君のように魔法を使えるわけではない」
「ネノは昔から凄かったですからね。俺は昔は、全然魔法の制御も出来てなかったですけど」
俺はネノが褒められるのが嬉しくて、自慢するように昔のネノのことを口にする。
俺のネノは本当に昔から変わらず、凄かった。
「……レオニードは昔から魔法をこれだけ使えたわけではないのか」
「それはそうですよ。最初なんて、《時空魔法》に何かをしまっても潰してしまったりしていましたし」
「そうか……」
「どうしたんですか?」
「いや、もし私が同じ立場だったらと考えただけだ。……私は幼い頃にネノフィラーのような存在に出会っていれば、心が折れていたかもしれないなと想像した」
そんなことを突然言い出すジュデオンさん。なんだか語りたいようなので、黙って聞くことにする。
「ネノフィラーのような特別な存在を前に、その才能への妬みや自分との違いを実感しても折れずに何処までも自然体でいること。……それが出来るからこそ、ネノフィラーはレオニードを好いているのかもしれないなと。私は自分が国内一の魔法使いでなければネノフィラーに告白など出来なかっただろう。君はそういうことは全く気にしてなさそうだ」
そんなことを言われて不思議に思う。
正直、どんな立場であれ誰かに気持ちを伝えるのに権利なんてものはない。ああ、でも確かに王族や貴族相手にいきなり平民が告白をするとかは周りに阻まれて無理かもしれないけれど。というか、ネノは『勇者』である以前に、ただの村人の女の子だしなぁ。
「ネノはネノなので、俺はどういう出会い方をして、俺達が互いにどういう立場だったとしても――好きにはなったのはないかと思いますよ」
生き方が違えば、本当に全てが異なっていっただろうけれど。
だけれども俺は多分、どういう形でネノに出会ってもネノを好きになったんじゃないかなと勝手に思っている。だってネノはそれだけ魅力的な女の子だから。
「レオ! 私も」
ジュデオンさんに向かって俺が言った言葉を聞いたネノが、急に勢いよく抱き着いてきた。俺とジュデオンさんのやり取りを黙って聞いていたネノだけど、我慢できなくなってくっつきたくなったみたいだ。
可愛い。
嬉しそうに俺に抱き着くネノを抱きしめかえしていると、テディは顔を赤くしていて、ドゥラさんは笑っていて、ジュデオンさんは驚いた表情をしていた。
「ジュデオンさん、他にも魔法見せた方がいいですか?」
俺はネノを抱きしめたまま、ジュデオンさんの方を見てそう問いかける。
「……見たいが。そのまま魔法を使えるのか? くっついているネノフィラーが気にならないのか?」
「別にネノがくっついていても魔法は使えますよ」
俺はそう言って、ジュデオンさんに希望されたので、そのまま魔法を行使するのであった。
ちなみにその間、ずっとネノは俺にくっついていた。




