魔の申し子 3
魔法を見せるために外に出れば、相変わらず人が多かった。テディたちを一目でも見ようとここに押しかけてきている彼らがいる状況では魔法の披露もしにくい。
「一旦、街の外に行こう」
見世物にされるのもなんだかなぁと思ってしまうので、街の外に皆で向かうことにした。
流石に魔物がいる外にまで追ってくる人は少ないので、そちらの方が楽なのだ。店番は少しの間、テディたちと一緒にやってきた騎士がやってくれるらしいのでお任せすることにした。
皆で街の外に出て、人気がない森の中へと向かう。
「それで魔法を見せて欲しいって言ってたけど、何見せればいいんですか?」
魔法を見せて欲しいと言われても何を見せたら満足するのだろうか? などとそんな風に考えながら問いかける。
「ひとまず《時空魔法》を……!」
前のめりな感じなのは、《時空魔法》に関する興味が強いからだろうか。魔の申し子と呼ばれるぐらいだからジュデオンさんの魔法は凄い腕なのだと思うけれど……実際にどういう属性の魔法が使えるのか俺は詳しく知らない。
『勇者』をやっていた時のネノからの手紙にも、特に詳しいことは書いてなかったしなぁ。
「じゃあ、一回色々とりだしてみる」
どういうものを見たいのか分からないので、空間を生み出してそこに放り込んである物を取り出す。
「どのくらいの量が入るんだ?」
「沢山。家とかも入ります」
どのくらいと言われても限界まで放り込んだことがないので、どこまで入るのかは分からない。作った《アイテムボックス》は収納限界はあるけれど、《時空魔法》でしまう分には今の所、どこまで入るか知らない。
俺の言葉にジュデオンさんは驚いた顔をする。
「それは凄い。《時空魔法》を使える者は数がそもそも少ないが、それだけの物を収納出来るのは珍しいはずだ」
魔の申し子と呼ばれるジュデオンさんは、それだけ魔法に精通しているのだと思う。だからこそ《時空魔法》についての知識も俺が思っている以上に持っているのではないかと思う。
「俺にとって一番適性のある魔法属性が《時空魔法》だったので、この魔法の練習ばかりしていたので……」
俺はネノのように複数属性を満遍なく使えるとか、最初から魔法の才能に溢れているとか、そういうわけでは全くなかった。そういう状況でどうやってネノに置いて行かれないように出来るだろうかと考えた時に俺は自分の長所を伸ばすべきだと判断した。
元からどうしようもない才能を嘆いても仕方がない。出来る限りの努力をしてもネノに追いつけないとか、ネノが振り向いてくれないとかそういう可能性も十分あった。だけれども俺はネノが好きだと思ったからこそ、ネノに追いつけるように頑張ろうとそう思ったのだ。
「……他の魔法は何が使えるんだ?」
「水魔法と無属性魔法は使えますよ。でもそれ以外は、誰かが使った魔法を《時空魔法》でしまって借りるぐらいですね」
俺の管理下にある空間へと魔法をしまう。そしてそれを適宜に取り出して、戦いに使う。
そうやってしまってある魔法を自由自在に使っている俺は多くの魔法属性を使えるように周りから誤解されるかもしれないが、俺は《時空魔法》以外はそんなに使えない。
「魔法をしまう?」
ジュデオンさんは興味深そうに俺に問いかける。
この人は魔法が本当に好きなんだろうなと思う。だからこそ、魔の申し子と呼ばれるぐらいに魔法を極めたんだろうし。
「何か魔法使ってもらえますか?」
俺がそう問いかけると、ジュデオンさんは簡単に一つの魔法を完成させる。
それを俺は《時空魔法》でしまう。
「おお!!」
それを見たジュデオンさんは大きな声をあげて、目を輝かせている。
「私の管理下から魔法が離れているな。これはどういうことだ? 《時空魔法》でしまわれることによって、完全に遮断されたからということか? それにしてもこれは……」
そして何かしら思うことがあるのか、一人でブツブツと何かを言っている。自分の世界に完全に入ってしまっているようである。
「おい、ジュデオン! 自分の世界に入るな。レオニードが困っているだろう!!」
テディがそう言って声をあげれば、ジュデオンさんははっとした様子を見せた。そして俺に向かって告げる。
「しまった魔法を取り出すとはどういう感じだ!?」
そう興味津々で問いかけられて、俺はさっそくやってみる。
その魔法を取り出すと、ジュデオンさんが魔法に対して干渉をしたのか動かしにくくなる。
「ふむ。なるほど。元々私の魔法だからこそ、こちらで無理やり制御しようと思えばできなくはない形か。ただ、普通よりは魔法が使いにくいな……」
基本的にネノとメルの魔法をしまって、取り出している。ネノたちは特に俺に任せた魔法を無理やり自分で制御しようとしないのだけど、やってみるとこんな感じになるのかと思った。
まぁ、干渉されたとしても一度《時空魔法》でしまって、俺の管理下にあるからこちらの権限の方が強いわけだけど。
俺は《時空魔法》について分かっているつもりだけれども、まだまだ知らないこともあるのだなと思った。