魔の申し子 2
急に泣き出してしまったジュデオンさんに俺は驚く。
先ほどまで冷静沈着というか、表情一つ変えずにいたのに急に泣くことなどあるのだろうか……。
「ジュデオン、泣くな! ネノフィラーがあまりにも冷たいから悲しくなったのかもしれないが、ネノフィラーは元からそういう性格だ!」
「ジュデオン、振られたからといって泣いていては情けないです」
俺が驚いている間に、テディとドゥラさんがジュデオンさんに近づいて声をかけている。
泣かせてしまった本人であるネノは、「レオ、ごめんね、面倒な人来ちゃって」とジュデオンさんのことはどうでもよさそうに俺に話しかけていた。
「大丈夫だよ。それだけ俺のネノが魅力的だってことだから。それよりジュデオンさんって……結構打たれ弱い?」
「さぁ?」
俺の疑問には疑問で返される。うん、ジュデオンさんに本当にネノは関心がないんだろうなというのだけが分かった。
「……ネノフィラー、私はネノフィラーと一緒がいい」
「私は要らない。今すぐ去る」
「……そ、そんなことを言わないでくれ」
「此処に居たいなら、寝言は言わないで。私のレオを不快にさせる人、嫌」
ネノがはっきりとそういうと、ジュデオンさんはやっぱり落ち込んだ顔をした。
「求婚とかやめるなら、まだ許す」
「……わ、分かった」
「ん。なら、良し」
満足気に頷くネノ。ジュデオンさんは戸惑いながら頷く。
そしてジュデオンさんは俺の方に視線を向ける。
「ネノフィラーの夫が、どれだけ魔法が使えるか知りたい」
「それ、何か関係あるの? 私はレオが魔法が使えるから好き、違うよ?」
「それでも私が負けた相手の実力は知りたい!!」
ジュデオンさんがそう言い切る。その言葉を聞いたネノは俺の方に視線を向ける。
面倒そうな視線に思わず笑ってしまう。
魔法の腕がどのくらいあるかは、ネノが俺のことを好きでいてくれる理由に関係ないしな。
でもそんなに俺の魔法を見たいというのならば、見せる分には何も問題がない。それに俺自身はネノと一緒に旅をした面々とは出来れば仲良くしていたいとは思っているし。
「別に構わないですよ。外に出て魔法見せましょうか?」
俺がそう口にすれば、なぜだかテディの方が大きな反応を示す。
「俺もレオニードの魔法見たい!!」
「テディは前に見ただろう」
「あれだけじゃなくてもっと見たい!! 《時空魔法》の使い手なんてあんまりいないからな。どういった魔法なのか、もっと知りたい!!」
テディは元気である。前に俺の魔法をテディは見たことがあるはずだが、もっと見たくて仕方がないようだ。
そうやって会話を交わして、そのまま外に出ようとしたのだが……テディのお腹が鳴ったので一旦食事を振る舞ってからにすることにする。どうやらテディたちは昼食をまだ食べていない状況らしかった。王都からこの街までグリフォンに乗って直行してきたようだ。俺はそういう魔物に乗って移動するというのはやったことがないが、やっぱり馬車に長時間乗っている時のように疲れてしまうものだろうか?
ドラゴンの姿のメルに乗って移動もいつかしてみたい気もするけれど、そんなことしたら騒ぎになりそうだからな。人里の近くをドラゴンが飛んでいたら討伐部隊とか出かねないしな。飛んでいくなら事前にドラゴンで飛んでいくというのを知らせてからの方が安全だと思う。
テディたちに振る舞う昼食に関しては、テディが「肉がいい」と言っていたのでステーキを振る舞うことにする。あとはパンとスープを用意する。
肉に関しては街の近くの森で取ってきた牛型の魔物を使っている。胡椒と塩をかけて、ただ焼いただけだけどお肉自体がステーキにするのに最適なものなのでそこまで味付けをしなくても美味しいものだ。まぁ、色んな味のタレとかをつけても当然美味しいけれど。
パンに関しては中にクリームを入れたクリームパンと、あとは何も中に入っていない普通の物も用意している。こちらはジャムを塗って食べたり、そのまま食べるも自由である。スープはコーンを入れた黄色いコーンスープだ。具材として色んな野菜も入れている。
俺とネノは既に昼食は済ませているので、テディたちに食べてもらうように新しく作った。ネノには「もっと簡単なものでいいのに」とは言われた。ドゥラさんが三人分の食事代は払ってくれた。
「相変わらずレオニードの料理は美味しいな! 美味しいだろう? ジュデオン」
「美味しい」
にこにこしているテディと、表情は変えないがどんどん食べているジュデオンさん。
気に入ってもらえたようで、作った側からしてみれば嬉しい限りである。
「レオニード様、毎回来るたびに面倒事を起こしていてすみません」
ドゥラさんには謝られる。来るたびにテディが色々言っていたり、ジュデオンさんが魔法の腕を見せて欲しいと言っていることに対してドゥラさんは申し訳なさを感じているらしい。
……『勇者』パーティーの旅で、いつもドゥラさんはこうやって周りがやらかした時は尻ぬぐいしていたんだろうなと想像が出来た。
俺が「気にしなくていい」といったら笑っていた。
それから食事の後に宿の外で魔法を見せることになった。