旅立ち前に、やってくる ①
「『勇者』様達がこの街を去られるなんて……っ」
「もっと、街にいていただきたいのに……」
さて、ダンジョンの暴走をおさめた後、俺達はそろそろリュアジーンの街を去ろうかと思っていた。
今回の宿経営ではダンジョン内での経営の方が楽しく出来たと言えるだろう。街中での経営は皆が『勇者』であるネノを特別視しすぎているという点から面倒な相手が多かったから。
暴走への対応と、領主の根回しでネノが何らかの使命があって偽装結婚しているという噂は大分鳴りを潜めてはいるが……、一度広まった噂というものは中々根絶は出来ないものだ。だからいまだにそういうことを思い込んだままの人もいるだろう。
後は手のひら返しが凄まじいと思う。
誤解が解けたのはいいけれど、次はもてはやしてくるのはよく分からないものである。
そういう風に変わり身が速すぎる人たちがこの街には結構多い印象だ。あとは俺がどういう活躍をしたか、あることないこと広まっているので報復されるのではと思っている人とかいるっぽい。俺に対する態度が酷かったからって。……うん、そういう風に思うのなら最初からしなければいいのになというのが一先ずの感想である。
こういう人だと思い込んでいたからとか、何かしらの理由があったからとか、そういうのは結局言い訳でしかない。そもそも相手がどういう人であれ、そういう態度をしなければいいだけの話だしなぁ。
もうすぐこの街を去る予定だが、宿自体はギリギリまで開けてはいる。相変わらず並ぶ客が多くて驚いた。それに関しては俺達が街中よりもダンジョン内で宿を開いているのが多かったから、泊まれなかった人も多かったからのようだけど。
ダンジョン内で何部屋かだけ増室したけれど、それでもまだまだ足りないからなぁ……。
宿泊客だけじゃなくて、食事客に関しても相変わらず多い。純粋に俺の料理を食べに来ているっていうよりも『勇者』の宿で食事をしたいという人たちばかりのようだ。
もっと俺の料理目当てで来る客も増えたら嬉しいなとは思う。
「レオ様、ネノ様! 僕、ダンジョン行ってくるね!!」
メルはダンジョンの暴走の問題が片付いた後も、よくダンジョンには顔を出している。街中で宿を開いている間も、潜っては暴れてきているようである。メルに命を助けられた冒険者もそれなりにいるので、彼らはお礼を言いによくこの宿に訪れていた。
とはいえメルは人に対する関心はあまりないので、「助けてくれてありがとう」と言われても本人はいつ助けたか覚えてもいないようだが。
ラポナの元へ一人で押しかけたりもたまにしているようで、ダンジョンマスター室の様子を楽しそうに話していた。ちゃんと夕食時の忙しい時間の前には帰ってくるので、問題はないが。
「メルはダンジョンで遊ぶのを気に入っているよな」
「うん。楽しそう」
「もうすぐダンジョンで遊べなくなるから今のうちに遊ぼうって思っているのかもな」
「多分、そう」
メルがダンジョンに行っている間、俺とネノはのんびりと会話を交わしていた。
人にとっては危険なダンジョンも、メルからすれば楽しい遊び場でしかない。ラポナというメルにとって面白い存在がいるのもダンジョンによく赴く理由だろうか。
「次は人が居なさそうなエリアに行くとして、どっち行くか悩むよな」
「ん。どこ行こう?」
冒険者の街を後にすることは決めているが、何処に行こうかというのは明確に決まっていない。目的なしにぶらつくのもありだけど。
「適当にぶらぶらしながら、面白そうな噂を聞いたらそっちに行くか」
「面白い噂、欲しいよね」
「そうだよな。珍しい客とかが来ると楽しいし」
「人、王子、フェニックス、ダンジョンマスター、次、なんだろ?」
色んな存在を客としては迎えているけれど、次はどんな存在を迎え入れられるだろうか? どうせなら客として受け入れられるすべての存在を受け入れるとかできれば楽しそうだよなぁ。普通の宿だとまず、客にならないような存在とかも含めて。
「人があまりいなくてゆっくり出来るところで、それでいて変わった種族とかいそうなエリアだと面白そうか」
「うん。そう思う」
俺の行ったことのある場所は少ないし、もっとまだ見ぬ景色を見にも行きたい。そういう気持ちで提案すれば、ネノも頷いてくれた。
メルの意見も聞いて向かう先は決めた方がいいけれど、何処に行こうか?
「前に泊まった宿のおばあさんにちょっと聞いて来ようかな。あのおばあさん、色んな情報知ってそう」
ふと、おばあさんに聞きに行くのもありかと思って俺はおばあさんの元へ行ってみることにした。
俺達が言う前から、『勇者』夫妻だと悟っていた只者ではない雰囲気のおばあさん。俺達よりも長生きしているから、それだけ色んな人生経験をしているだろう。何かしらの面白い場所の情報は手に入るかもしれないと思ったのである。
ネノも「それ、あり」と言っていたので俺はおばあさんの元へと早速向かうのだった。




