ダンジョンマスターはかく思う。
「ふぅ……」
私の名前はラポナ。
リュアジーンのダンジョンを管理するダンジョンマスターである。私達ダンジョンマスターという種族は、一見すると人のようにしか見えない姿をしている。でもこれはあくまで仮初の姿というか、ダンジョンマスターとして動きやすいようにするためにこういう姿を取っているにすぎない。
この体を壊されたとしても、まだ死にはしない。……とはいえ、流石に『勇者』さん達は完全に私の事を殺すことが出来るだろう。それだけの強大な力を持っているのが彼らだから。
『勇者』さんも、旦那さんも、ドラゴンさんも――その一人一人が驚くほどの力を持ち合わせている。一人だけでもおかしいのに、それが三人も揃って行動をしているのは怖い……。『勇者』さん達が私のことを消滅させようとは思っていないことは有難いけれど、それでもやろうと思えば私のことなんて彼らはどうにでも出来るのだ。
そういう恐怖心を抱いていても『勇者』さん達と接触をしたのは、詰めが甘い私がダンジョンの成長のさせ方を失敗してしまったからだ。まさか、『勇者』さんが『魔王』をあれだけ短い期間で倒してしまうとは思ってもいなかった。
私はダンジョンマスターとしては、まだまだ若手の方だ。だってこの街が出来た頃からしか、存在していないのだから。
折角『魔王』が現れるのならば、もっと自分やダンジョンを強化しようと思った。だからこそ、そういう成長の仕方をしたのだけど、『勇者』さんの『魔王』討伐があまりにも速すぎて結局自分の成長が出来ないままにダンジョンだけ成長しているという駄目な状況になってしまったのだ。……まだ『勇者』さん達が話を聞いてくれるタイプで良かった思う。
だって魔物は絶対に殺すべきって考えの『勇者』ならば、私は問答無用で殺されていただろうから。まぁ、そもそもそんな『勇者』だったら私は接触はしなかったけれど……。
「……私のこと、お客さんとして迎え入れちゃうし、本当に変わっている」
私の頼みを聞いてくれて、ダンジョンの暴走への対応をしてくれた。ダンジョンの核に魔力を吸われすぎてしまって魔物が大量発生したのも簡単に対応していた。特に『勇者』の旦那さんの《時空魔法》はえぐい。……私達ダンジョンマスターも、ダンジョンを好きにいじれて、それは《時空魔法》が関わっていることだ。でもそれはダンジョンを自由自在に変形させていくことに長けた力で、『勇者』の旦那さんのような力はない。というかあれだけ《時空魔法》を極めているのは本当に稀有な存在である。
それでいてダンジョンマスターである私を宿へとお客さんとして迎え入れる。……ダンジョンの外に出たことのない私からしてみれば、宿に泊まったり、料理を振る舞われるなんて中々ない経験だった。
おそらく『勇者』さん達は自分達にとって害のない存在であるのならば、どんなものでもきっと受け入れるのだろうなと思う。きっと一般的には人から敬遠されるような存在でも、敵対すべきものだとされていても――彼らには彼らの価値観があって、その価値観に沿うのならばどんなものだってお客さんなのだ。
本当に変わっていて、面白い人たちだと思う。
あとは『勇者』の旦那さんが作ってくれた料理というのが美味しかったのが驚いた。
ダンジョンマスターは、食事と言うものを必要としていない。ダンジョンが問題なく経営出来ていればそれでいいのだ。だからこれまで人や他の魔物のように必要でないから何かを食べたり、飲み物というのを飲んだりはしてこなかった。
――でも食事っていいものだと教えられてしまった。必要はないけれどこれから私は時折料理を作って、食べるだろう。
ダンジョンマスター権限で様々なものを取り寄せたりは出来るので、これから取り寄せることになりそう。……今までの私だったらそんなことに力を消費するぐらいなら、ダンジョンの運営に使うことにしていただろう。
でも食べた料理は美味しかったから。それに、料理をするのも楽しかったから。
だからそういうことに力を使うのもいいかなと思ったのだ。
『勇者』さん達はまもなく街を後にする。そうなれば私は料理が食べたい場合、自分の手でつくる必要がある。それかいっそのこと料理をしてくれる専用の魔物でも生み出す? でもその生み出す魔物の調整を失敗したら、ダンジョンマスター権限を奪われるとかもあるかもなので、生み出すのならばちゃんと考えてやらないと。
……というかそもそも考えなしにダンジョンを成長させた結果、暴走寸前になっていたのだから、そういう風な魔物を軽い気持ちで生み出したら大変なことになりそう。
一旦、しばらくそれは保留にして、自分で料理を作ることにしよう。
『勇者』の旦那さんから料理に関する本はもらったから、練習すれば私も美味しいものを自分で作れるようになるはず……!
そんなことを考えると、私は楽しみで仕方がない。
――『勇者』さんがこの街をされば、二度と会わないかもしれない。でもきっと、彼らの噂は私の耳にも入ってくるだろう。
『勇者』さん達がこれから何を起こして、どんな噂になるのか。
私はそれを心待ちにしながら、これからもダンジョン運営を続けていくのだ。