報酬とこれからのこと ②
「ネノ、どうする?」
「ちょっとしたら去るつもり。念のため、しばらく様子見してから」
「まぁ、ダンジョンの暴走が本当におさまっているかの確認はいるもんな」
「ん。まだ起こりそうなら、放置は嫌」
ネノと俺はそんな会話を交わす。
おそらく考えていることは一緒で、折角交流を持つことになったラポナがこのまま大変な目に遭うというのは遠慮したいのだろう。それにダンジョンの暴走への対応を終えたということで報酬をもらっているのに、結局おさまっていないだとなんか気分が悪いしな。
「街とダンジョン、どっちで宿?」
「ダンジョン重視」
「それがいいと思う。街での宿だと面倒なこと多いからなぁ」
ダンジョンと街とで宿をやってみて、結論としてみればダンジョンでの宿経営の方が色々と楽である。面倒な人材がいないしなぁ。
今回のダンジョンの暴走をおさめた件で、俺の実力に関しても色々と噂になっているらしい。領主が動いたのも含めて、俺達の噂ってまた色んなことが広まっているようなのである。お礼を言いたいだとか、ダンジョンが暴走しかけたことの話を聞きたいだとか、そういう人たちが多すぎて正直言って面倒なのだ。
あとはダンジョンの様子も見ながら過ごした方がいいから、基本はダンジョン内で宿を開けた方がいいだろうというのが俺たちの結論である。
「ここの街、冒険者沢山。面倒なの多い」
「そうだよなぁ」
「それに、ダンジョン内で宿なら、ラポナも来れる」
「それはそれで楽しそうだけど、他に人が居たら逃げそうじゃないか?」
「人が全然来ないとこで開けばきそう」
ネノはラポナのことを結構気に入っているのかもしれない。人じゃないからこそ、俺とネノのことをどうこう言うこともないからなぁ。そのあたりも含めてネノは客として迎えるのもいいなと思っているのかも。
ラポナを客として迎え入れようとするのならば、よっぽど深層で宿を開く必要があるよな。まぁ、それもありか。
そういう結論に至って、そういう深層で宿を行うなら客はラポナだけだろうななどと思った。
「ラポナをお客さんにするなら、料理の本とか買っていく!」
「そうだな。買っていったら喜びそうだよな」
「うん。レオ様の料理を食べてからラポナは食べることに凄く関心持ってたもん!」
というかメルも多分、ラポナのことをなんだかんだ気に入っているんだろうなぁ。こういうことを言っているあたり。
そんな話をした翌日には、俺達はダンジョンの奥深くに潜り、ほとんど誰も来れないような深層エリアで宿を開店した。
そしてダンジョン内でラポナに向かって声をかければ、姿を現わしてくれたのでもてなした。ラポナは「……私、お金ないです」と言っていたが、代わりにダンジョン産の財宝をもらった。お金の代わりにそういうのをもらうでも特に問題ないのである。
ダンジョンマスターとして、ダンジョンから出たこともないラポナは当然のことだがこういう宿で食事を摂ったり、泊まるのは初めてである。
そういうわけで終始楽しそうにしていた。
……というか、ダンジョンの深層部は中々危険な魔物ばかりである。これだけ危険な魔物が沢山いるからこそ、このダンジョンはまだまだ冒険者たちの手によって攻略はされないんだろうなとも思う。
「『勇者』さんも、『勇者』の旦那さんも本当になんかすごいですよね……。これだけの魔物がいる階層で平然と宿を開いて、魔物である私を迎え入れるとか色々おかしい……」
バクバクと俺の作った料理を食べているラポナにそんなことを言われた。
でもおかしいって言われても、俺達はどんな場所でも宿を開けるから開いているのであって、それ以外のなんでもないしなぁ。それに魔物であろうが、俺達が迎え入れると決めたのならば客であることは変わりないし。
ネノもそんなことを言われても……という顔をしていて、ラポナは益々呆れたような表情を浮かべていた。
ちなみにそうやって過ごしながら、ラポナに本当にダンジョンの暴走は起こらないのかというのを確認した。
結局ラポナが核に魔力を込めすぎた結果、魔物が大量に現れ、予想よりも早く解決したわけだ。でもそれでラポナが魔物にとどめを刺す機会が減って、それは問題らしい。そういうわけでラポナを客として迎えている間に、俺達で弱らせた魔物をラポナがとどめを刺すというのをやってもらった。
それでラポナの問題が解決すると、ラポナは喜んでいるのだった。
「『勇者』の旦那さん、これ、美味しいです!!」
宿にいる間、ラポナはずっと食べてばかりだった。メル以上に沢山食べている。それでいて体形は変わらないので、ダンジョンマスターと言う種族は太らないのだろうか? などと思った。
――そうやってラポナに餌付けして、料理を教えたりしながら過ごし、たまに街で宿を開き、という日常をしばらく過ごしたのであった。
第五章 冒険者の街とダンジョンの暴走 完