店づくり 1
「朝か……」
暖かい体温を感じながら目を覚ます。俺の腕を腕枕にしてネノが眠っている。眠っていてもネノは可愛い。いや、眠っていたとしても起きていたとしてもネノが世界一可愛いのは世界の真実なんだけど。真っ白な雪のような髪にあいている左手で触れる。さらさらとした髪はいつまでも触っていたくなる。
こうして目を覚ました時に一番に目に映るのがネノであるという事実は、俺に幸福をもたらしてくれる。可愛くて可愛くて仕方がない俺のお嫁さん。ネノが俺のものであるという事実を実感する度に口元が緩んでしまう。
ネノの髪を優しく撫でていれば、ネノが目を覚ました。
寝ぼけた様子で、こちらを見る。目があえば、ネノはへにゃりと笑った。
「おはよう……レオ」
「おはよう、ネノ」
朝の挨拶をして、ネノの額に口づけをする。ネノは眠たそうにしながらも嬉しそうに微笑んだ。ネノが笑ってくれるだけで、こんなにも心が温かくなる。
ベッドから体を起こして、俺は朝食の準備を始める。その間、ネノはメルのもとへと向かった。メルはリビングのソファで警戒心の欠片もない様子で眠っていた。……こんなに警戒心がなくて大丈夫だろうかと不安になるレベルだ。こいつ、本当についこの前まで野生で生きていたんだよな? と思ってしまうぐらいだった。
ネノがメルの頬を指でつついたりしているのを横目に、《時空魔法》で収納している食パンと卵、砂糖、牛乳などを取り出す。朝なので簡単に済ませようと思っているので、作るのはフレンチトーストだ。
商人から取り寄せたものや村で育てていたもので《時空魔法》で収納していた食材だが、お店をやるのならば鶏を飼うのもありかもしれない。その建物自体、収納してしまえば問題もないし。となると、そちらの建物も建てるべきか。あとは牛もだな。
外で捕まえてくるか、それとも買うか。どっちがいいかはあとでネノと相談をして決めよう。《時空魔法》で収納している食材はかなりの数があるから、食堂をやるにしても宿をやるにしてもどうにかなるけど。あとは、どこでも水や明かりが使えるようにきちんとした対策が必要だな。この家にも備え付けている魔法具をお店用にも作る必要がある。考えなければならないことややらなければならないことがたくさんある。そのことを改めて実感しながらフレンチトーストを作り終えた。
机の上に並べる。メルには生肉を用意していたのだが、フレンチトーストを見て『僕もそっちがよい』と煩いのでメルの分も作った。竜の姿のまま食べるのかと思ったら、メルが白い煙幕に包まれる。そして次に目を覚ますと、人の姿に変わっていた。
……人の姿になるのは知っていたけれど、人の姿になったメルを見るのは初めてだったので一瞬驚いてしまった。
銀色に煌めく所々にくせ毛が見られる髪。
翡翠色の透き通るような瞳。
まだ幼さの残る小さな少年がそこに現れる。
「メルの人型、可愛い」
「可愛いって……僕、雄だし、可愛いとか言われても嬉しくない!! でも僕まだ、幼体だからそのうちもっとかっこよくなってレオ様の背も超すんだもん!」
ネノの可愛い、という発言にメルは反応を示す。
「……そのころには人間の俺達生きてなくね?」
「はっ、そうだった! レオ様より背が高くなって、こう見降ろしたかったのに!」
そんな会話をしながら、食事をする。メルは人の姿に変化する事をあまりしてこなかったらしく、フレンチトーストを食べながらぽろぽろと零したりしていた。そんなメルの面倒をネノが見ている。
「レオ様、これ美味しい!」
「……メル、食べながら話さないの。行儀が悪い」
食べながら話して、口から零れ落ちていたのでメルはネノに注意されていた。
「ネノ、今日はどうする?」
「お店を建てる準備。どんな風にするか、決める」
「まず、食堂とか宿をやるっては決めてるけどどっちがいい?」
「宿屋のほうが、面白そう、かも」
「じゃあその予定で、どんな建物にするか決めるか」
「うん。客室、何部屋か作る。あと食事する所。建物は襲撃されても大丈夫なようにする」
「そうだよな。何かに襲われてせっかく作った建物が壊されても嫌だもんな。メルに攻撃されてもびくともしない感じがいい」
「うん。そう。あとは何処でも大丈夫なように色々完備する。魔法具作成。分担してやる?」
「俺はネノと共同作業しながら進めるほうが楽しそうだと思う。分担したほうが早く出来るかもだけど、ネノと離れたくないし」
「レオ……。うん、そうだね。分担じゃなくて共同作業。レオとの共同作業で、お店作り。楽しそう」
二人でそんな会話を進めていたら、
「僕が攻撃してもびくともしない宿屋って……それかなりやばい感じの守備力持った宿屋だからね? 城塞レベルだって。そんなの作ろうとしているとか……」
メルが呆れたように呟いていた。
この世界の鶏や牛は魔力を持っていて、それなりに扱いが難しい家畜用の魔物の一種です。




