ダンジョンの暴走の食い止め方 ④
《時空魔法》から取り出したのは、お肉とお米。ラポナは米を初めて見るらしく、不思議そうに見ていた。
「人ってこういう色んな食材を使って料理をするんですね」
「ラポナ、メルのことは放っておいていいのか?」
「しばらくは、大丈夫のはずです…。何体か魔物出してきたので」
ダンジョンマスターとして、ダンジョン内で過ごしてきたラポナは料理をする光景を見るのも興味津々なのだろうな。
俺が米を炊いたり、お肉を焼いている様子を見てラポナは興味深そうである。本当にまるで小さな子供にしか見えない。でも魔物であるから、俺達よりは長生きをしているんだろうな。
「何をかけてるんですか? かけたら何か変わんですか?」
「これで味付けが変わる」
「味付け変わったら何かいいことあるんですか?」
「毎日一緒の味付けだと飽きるからな。楽しむために色んな味を試すんだよ」
「生命を維持するために食事と言うものをするのならば、味付けというのはいらないですよね?」
「そうだけど、俺は色んな味を楽しみたいって思っているかな」
本当に何かを食べるという習慣がないのだろうなと思う。人にとっての食事にあたるものは魔物によって様々なはずで、ダンジョンマスターにとっては食事というのは不要なものなのだろう。
それにしても食事の楽しみを知らないというのは少しもったいない気がする。
折角だから美味しい料理を作って、食事の楽しさにはまらせても面白いかもしれないなどとそんなことを思った。
作ったのは簡単なもので、焼いたお肉と山菜類を使ったサラダである。あとは飲み物に関しても、しまってあったものを取り出した。
「ラポナは何を飲みたい?」
「逆に何があるんですか? 人が飲んでいる飲み物も私は知らないです」
何かを飲むという行為も必要ないのか、飲み物についても全く把握していないらしい。ダンジョンの中で、ただダンジョンを運営しながら過ごしている彼女にとって不要なものだったのだろうなと思う。というか、見た目は少女にしか見えないけれどダンジョンマスターには性別があるのだろうか。もしかしたら女性に見えるだけでそうではないのかもしれない。
「果汁を絞ったジュース類とか、お茶とか、あとは牛乳とか色々あるけど」
俺がそう言ってそれぞれを取り出せば、ちびちびと飲んでいる。それで気に入ったのは牛乳だったようで、それを飲みたいと言われた。多めの量を取り出したのに、ごくごく飲んですぐに飲み切っていたから。
部屋に備え付けられていた机に料理を並べる。椅子の数は足りなかったけれど、ラポナが不思議な力で椅子を生み出していた。そういう家具類も自由自在に取り出せるものらしい。ダンジョン内限定だろうけれど、そういう力を持っているというだけでも凄いことだと思う。
限定的であろうとも、この場を完璧に支配し、どうにでも出来る状況なのだ。
ラポナは俺達の方が自分よりも強いと怯えていたりするけれど、ダンジョン内で本気で抵抗されれば俺達だって無傷では済まない可能性はある。ダンジョンマスターという種族はそれだけ自分の生み出したダンジョン内では最強と言えるような種族なのだとラポナと接触していて思う。
他のダンジョンに行く場合、ダンジョンマスターは俺達に接触をしてこようとはまず思わないだろうが……敵対した時のことは考えておかなければならないな。
そんなことを考えていると、ネノとメルがこちらにやってくる。
「美味しそう」
「レオ様、僕、いっぱい暴れたから、いっぱい食べる!」
ラポナが何体か出現させた魔物はメルによって簡単に息の根を止められたらしい。俺の隣に座るラポナは「あれだけ魔物を出したのにもう倒してしまうなんて……っ」とぶるりっと体を震わせていた。
ラポナの出現させた魔物はそう簡単に倒せるものではなかったのであろう。メルだからこそそれだけ簡単に倒せるのであって、ダンジョン内に野放しにされていたら大変な被害が起きたのではないかと思う。
そんなことを考えながら四人で食事を摂る。
「……魔物のお肉、こんなに美味しいんですね」
ラポナは調理されたお肉というのを初めて食べたからだろう、驚いた顔をしていた。その食事を摂る手がどんどん動き、あっという間に一人前を完食していたので気に入ってくれたのかもしれない。
牛乳に関しても、ごくごくと食事中も飲んでいた。
食事の後はまたラポナに核から魔物を出してもらって倒すということをしていたのだが、「料理、私も出来るようになりたいです」と言われた。そういうわけで俺はネノとメルに魔物の対応を任せて、ラポナに料理を任せたりした。ただラポナは料理を一度もしたことがなかったからというのもあって、すぐに焦がしたりしていた。ずっとダンジョン内で過ごしているラポナは、ダンジョンの外にある食材などについて把握しているわけではないだろう。折角なのでラポナに料理の楽しさと、美味しいものを食べる幸せを教え込もうと思って、張り切って料理を教えるのだった。