ダンジョンの暴走の食い止め方 ③
暴れ出した魔物は、メルにより蹴り飛ばされる。ただそのまましてやられるわけではなく、壁にぶつかる前に魔物は宙へ浮く。
その大きな口が火を噴く。
狙いはメルではなく、俺達の方だった。ラポナが体をびくりっと震わせているのは、その炎を浴びたらひとたまりもないからなのかもしれない。
「《勇者の盾》」
メルに任せるつもりのネノは戦いの場に入るつもりはないらしく、こちらに被害がないように盾だけを張ったようだ。
「『勇者』さんの能力って本当に凄いですよね。これが噂の《勇者の盾》かぁ」
「噂なってる?」
「私達魔物の間で、『勇者』さんは遭遇しない方がいい存在だから。『勇者』さんは魔物は全て倒すべき! っていう考えで動いているわけではないけど、歴代の『勇者』だとそういう私達にとって恐ろしい存在も多いんです。だからこそ『勇者』さんの動向は重要で、その情報も知ってます。特に『勇者』さんはたった半年で『魔王』を倒してしまったから……私達にとっては注目の的ですから」
知能ある魔物達の間では、ネノのことは噂になっているようだった。半年で『魔王』を倒したネノのことはそれだけ警戒対象でもあるのだろうなと思う。だからこそなるべく遭遇しないようにと思っているのかもしれない。まぁ、ネノは話が通じて敵対する気のない魔物を問答無用で倒したりはしないけれど。
「そうなんだ」
「はい。歴代の『勇者』の中には、ダンジョン攻略を趣味みたいにしている人もいたみたいで、あまりにもダンジョンマスターを惨い殺し方するので、ダンジョンマスターたちが結託して倒したとかも聞いたことあります」
『魔王』を倒した後の『勇者』の中で、ダンジョン攻略を目標にした人はそういう死に方をしたと伝えられているのか……。死因不明の『勇者』の死亡原因をラポナみたいな魔物たちは色々知っていたりするのだろうか。
それにしても本当に歴代の『勇者』の中にも色んな未来を歩んだ存在がいるのだなと思う。
それに『勇者』と言う存在も、死ぬときは死ぬのだなとも感じる。ネノが死んでしまうことは当然嫌なので、危険な状態のときはネノを守れるようにしないと。
そうやって会話を交わしている間に、メルは魔物を弱らせたらしい。
「ラポナ! 留めさすんだよね? もういけると思う」
メルのその言葉にラポナは魔物へと恐る恐る近づく。メルが大丈夫だと言っても、近づくのが恐ろしいと思っているのだろう。ダンジョンマスターなのに、自分たちの生み出した魔物に怯えているのはなんだか面白いなぁと思う。
「え、えいっ」
ラポナは可愛らしい掛け声で剣を振りかざし、その魔物を絶命させる。そして残るのは体の一部だけである。
「なんで、素材一部しか残らないの?」
「……全部渡したら清算が取れないからです! ダンジョンを運営するのは結構考えてやらなければならないので」
ダンジョンマスターの仕事は、自分の生み出したダンジョンを運営していくことだろう。それは俺たちのやっている宿経営と結構似ているかもしれない。言ってしまえば、ダンジョンとはお店のようなもので、商品として並んでいるのが宝物と言えるだろうか。そしてお店の奥深くに行くための条件が魔物を倒すこと。ラポナとしてみても人は呼びたいが、何でもかんでも渡してしまう形になるとお店でいう破産状態になるのだろうなと思った。
そのため、魔物を倒した際に渡す素材も一部にして経費削減みたいな形にしているのかもしれない。
「ラポナ、次の魔物は?」
「ドラゴンさん……休みなしに魔物の相手するんですか?」
「うん! 僕、この位じゃ疲れないもん。どんどんよこして」
やる気満々のメルは、どんな魔物が現れても問題ないとでもいう風に笑った。
ラポナにとってみればそれが信じられない気持ちになっているようである。
「やっぱりドラゴンさんは凄いです……。えっと、じゃあどんどん出します」
ラポナはそう言って、また核へと魔力を込め始めた。
それから次々と出現させた魔物をメルが倒していく。何回かに一回の割合でラポナにとどめをささせていた。
「メル、楽しそう」
「そうだな。本当に元気だよな。それにしてもあの核って興味深い」
「うん。どういう仕組みだろうね? 今回はメルが全部相手にしそうだし、他のことする?」
「俺、ちょっとご飯作ってこようかな」
魔物の相手はしばらくメルがやるで問題なさそうなので、俺はご飯でも作ろうかなと思った。そういうわけでラポナにご飯を作っていいか問いかける。
「もちろんです。わ、私も食べたいです」
「いいけど、ダンジョンマスターって食事居るのか?」
「食べなくてもどうにでもなりますけど、食べたいです」
ラポナにそう言われたので、俺は四人分の料理を作ることにする。
ラポナの過ごしているエリアには、キッチンはなかった。これは料理をする必要がないからだろう。俺は《時空魔法》でしまっていた料理器具や持ち運びできるコンロを取り出して料理を始めた。