ダンジョンの暴走の食い止め方 ①
「は、はじめまして。『勇者』さんと、ドラゴンさん。私はダンジョンマスターのラポナです」
ネノとメルを連れてラポナの元へと行けば、彼女は驚くほどに緊張した様子だった。
……最初に俺と会って話した時も自分が殺されるのではないかと恐れていた様子だったし、ネノとメルまで一緒にいるので余計に恐怖心でいっぱいなのかもしれない。
「私、ネノフィラー。よろしく」
「僕はメルセディス! 僕、ダンジョンマスターって種族初めて見たー! 何が出来るの?」
いつも通りなネノと、楽し気にグイグイラポナに近づくメル。メルに近づかれてラポナはぷるぷる震えている。
ラポナは本人が言っていたように、戦う力をあまり持ち合わせていないのだろう。だからこそ、ネノとメルに恐怖心を抱いているのかもしれない。
「え、ええっと……よ、よろしくお願いします。ドラゴンさんの言葉に答えると、その、私はダンジョンの管理者なので、魔物を配置したりとか、道を作ったりとか……色々出来ます」
ラポナとしてみれば、こうして俺たちが此処にやってきて、ダンジョンの暴走を食い止めることは喜ばしいことだろう。しかし俺たちのことを怖がっている気持ちは抜けないようである。
「なんでそんなに怯えてるのー? 僕、別に君に何かする気ないよー? もしかして食べられるって思ってる?」
「ド、ドラゴンさんは、私よりもずっと強くて、上位の存在だから……! 『魔王』の影響もあんまり受けない上位種じゃないですか!!」
ラポナの言葉を聞いて思ったけれど、確かに魔物でもメルは『魔王』の影響をあまり受けていなさそうだったことを思い起こす。あんまり気にしていなかったけれど、それはメルがそれだけ特別な種族だからだろうか。
『魔王』がいようがいまいが気にしない。メルはそういう態度だった。
でもラポナのような魔物にとっては、『魔王』の存在というのは特別なものなのかもしれない。
「そ、そんな上位種のドラゴンさんにぶ、無礼な真似したら私なんて一瞬で消し炭…!」
「だからやらないってばー。ねぇ、レオ様、この子、おびえすぎなんだけど」
ラポナの態度に不満そうな顔をしたメルはそう言いながら俺の方を見る。これだけ怯えられて、何とも言えない気持ちになっているのかもしれない。
「ラポナにとってはメルがそれだけ自分をどうにでも出来る存在なんだろうな。しばらく一緒に過ごせば怯えられなくなるかもしれないぞ」
「んー。じゃあ、そうする! 僕もおびえられっぱなしは何か嫌だし」
メルがそう口にすると、相変わらずラポナはぷるぷると震えていた。なんだかダンジョンマスターという種族の魔物のはずなのに、小さな非力な子供にしか見えない。
「ラポナ、ダンジョンの暴走を食い止めるために俺たちは此処に来たんだ。本題に入るけれど、まずやるべきことを教えてくれ」
ダンジョンの暴走をどうにかするためにこのダンジョンの深部にやってきたので、早速本題を聞く。
「ダンジョンの核から出てくる魔物を倒してほしいです! 私だと制御が効かない子たちが産まれてしまっていて……あ、あとはその、何体かでいいので私に留めをささせてもらえたら!」
「それにどういう意味があるんだ?」
「前に説明しましたが、私は自分の手に余る方向でダンジョンを成長させてしまいました。『勇者』の旦那さんたちが生み出された魔物を倒してくださるとしばらくは安全ですが、私自身が成長しないと結局制御出来ないままになってしまって……」
「その成長させてしまったダンジョンを弱体化することは意図的には出来なさそうなのか?」
「出来ないわけではないのですが、それをすると私は産まれたての赤子状態になります……。今までのようにダンジョンを運営していくことは出来ず1階層ぐらいのダンジョンにしか出来なくなります……。そうなれば私は消滅する可能性の方が高くなります。それに幾ら弱体化させたとしても元々の私の魔力は残りますから、結局大変なことになります……」
『魔王』がこの世界に何年も存在することを期待して成長をさせ続けてしまった末路が、今のこのダンジョンなのだろう。人だってそうで、自分の実際の力以上のことを過信して行おうとすれば失敗してしまうものである。
その自分の体には手に余る力をラポナは持て余してしまっているのだろう。
「ダンジョンマスター、他のダンジョンも同じような感じ?」
「……わ、私みたいに考えなしでダンジョンを広げたりは皆していないと思います。だからそのあたりはそこまで心配は要らないかと!」
ラポナはネノから聞かれた言葉に元気よくそう答える。それにしても自信満々に自分が考えなしにダンジョンを広げたと断言しているなぁと思わず笑ってしまった。
ただラポナのように考えなしにダンジョンを拡張してしまったのではなく、意図的にダンジョンを強化している者もいるだろう。そういうダンジョンに関してはよっぽど危険だと判断されたら、国が対応するのだろうなと思う。