街での宿経営と、ダンジョンの話 ⑧
「ダンジョンマスター?」
「へぇ、僕も初めて聞いた!!」
俺は夕食時前には宿には戻れていた。忙しい食堂を開く時間を終えてから、俺はラポナからネノとメルにラポナから聞いた話をした。
『勇者』として旅をしていたネノも、ドラゴンで俺たちよりも長生きしているメルもダンジョンマスターという存在を知らなかったらしい。ラポナ自身も戦闘能力が低いと言っていたのもあって、人前に出てこようとはめったにしないのだろう。
今回はラポナ自身がダンジョンの暴走をどうにかしたいというのもあり、俺たちに接触してきただけの話である。たまたま俺たちがこの街に来ていなかったらダンジョンマスターのことを知ることもなかったのだろうなと思う。
「俺も驚いた。ダンジョンが暴走する可能性が高いから助けて欲しいと言われているけれど、どうする?」
助けて欲しいと言われてやるかやらないかは正直、本人次第である。世の中に助けを求められたら必ず助けようとする性格の人もいるかもしれないが、そんなものは時と場合による。
とはいえ、今回のことは放っておいたら大変なことになりそうだとは思うが。
「助けるのあり。ダンジョンマスターから、話聞く。楽しそう」
「うん。僕もその子と話してみたいー! それに助けることになったらいっぱい暴れられそうだし」
ネノとメルはそれぞれそんな風に答えてる。
「じゃあ助けるか。ラポナが言うにはそのままにしておくと、ダンジョンの暴走で街への被害もやばそうだからな」
「ん。そのダンジョンマスターのこと、周りに言わない方がいいなら言わずにやる」
「そうだな。広まったらラポナも色々狙われそうだからな……。どれだけ善良な人間ばかりだとしても、周りが全員そうだとは限らないから」
「領主に、言わない方がいい。私たちのことも、上手く情報、回せてない。そういう人に言うの問題」
本当に信頼出来て、そういう情報を言っても問題がない相手に告げるのはありかもしれない。しかしそうでない相手にはそういう周りに広まっていない情報を流すべきではない。
それにこの街の人々からしてみてもダンジョンというのは無くなったら困ってしまうものである。
ダンジョンの街と呼ばれる場所だから、それが無くなったら大変なことになる。
相互のためにもダンジョンマスターという種族に関しては、俺たちの心のうちに留めておいた方がいいだろう。
「そのダンジョンの暴走しかけているのを対応する場合は、しばらく宿閉めて籠るか」
「うん。それ、あり。私も、そのダンジョンマスター会いたい」
ネノは俺の言葉に頷いてそう言った。
ダンジョンマスターにネノも会ってみたいと興味津々のようである。
「じゃあラポナには、もうしばらくしたら行くって感じにしたらいいか。宿泊客たちには告知して、少し閉めること言えばいいし」
「うん。それがいいかも。その暴走しかけているのの、対応、すぐ終わる?」
「さぁ。そこまでは聞いてなかった……」
ネノの言葉に、頼まれたことがどれだけ時間かかるかというのを全く聞いていなかったことに思い至った。
ダンジョンマスターって、魔物の一種であるというのならば人よりはずっと寿命が長いのだろうか。それならば彼女にとっては短い期間でも俺たちにとっては長かったりするか? あんまり長すぎた場合は要相談だなぁ。
「良い感じに領主に報告。報酬ももらう。一石二鳥」
ネノが嬉しそうに小さく笑っている。
領主からもラポナからも報酬もらえるのは確かに二重に美味しい。
「ねぇねぇ、レオ様。そのダンジョンマスターって、宝物もくれるっていってたんだよね? どんなものがあるかな?」
メルに関してはそういう宝物的な報酬の方が気になっているようである。ダンジョンで見つかるものって実用性の高いものから、何に使うか全く分からないようなただの飾りのようなものもあるはずだ。
メルの場合はそういう飾り的なものでも喜んで受け取りそうな気がする。というか、ラポナは宝物は人数分くれるのだろうか? そのあたりもきちんと詰めて決めた方がいいだろうから。
「またダンジョン潜ってラポナと話してくる。暴走を止めることは協力することと、その条件についてつめてくるよ。だからネノとメルが疑問に思うことあったらまとめておいて欲しいかな」
「分かった。考える」
「うん。僕も考える!」
ネノとメルの言葉を聞きながら、俺もラポナにどういうことを確認しておけばいいか考えなければと思うのだった。
そうして俺は翌日にラポナの元へ行き、提案に応じること報酬に関する条件を詰めた。
「『勇者』さんと旦那さんとドラゴンさんが手伝ってくれるの助かります! 幾らでも報酬は渡します」
そんな風にラポナは言って喜んでいた。
そういうわけで、俺たちはダンジョンへの対応をするための準備を進めていったのだった。
一旦街でのダンジョンを閉め、なおかつダンジョン内でも宿をやるわけではないと聞いて街の人々にはどうするのか聞かれたがネノが「秘密」と答えていた。