街での宿経営と、ダンジョンの話 ⑦
長い髪を一部三つ編みにしており、その瞳も髪と同じ色であった。
こんなダンジョンの奥にいるのが不思議な、ただの少女にしか見えない。
――だけど、こんなダンジョンの奥深くにいる少女が普通のはずはない。
「お前は?」
「私はダンジョンマスターのラポム」
「ダンジョンマスター?」
その少女はダンジョンマスターと名乗った。
「それって、魔物の一種なのか?」
「そうです! ダンジョンを生み出し、管理するのが私たちダンジョンマスターという種族になります。私はこのリュアジーンのダンジョンのダンジョンマスターです!」
俺がダンジョンマスターという種族に関して分かっていないことを把握しているのだろう。そのラポムと名乗った少女は説明口調で言い切る。
「ダンジョンを生み出す種族? ダンジョンはお前たちが作っているのか?」
「そうです! えっと、出来れば私のことは周りに言わないでもらえると嬉しいです。私は戦闘能力があまりないので、攻撃受けたら死にます!」
「……ダンジョンマスターが死ぬとダンジョンってどうなるんだ?」
「ダンジョンが管理下から離れるので、収拾がつかなくなります。場合によってはその場で崩れたり消失します。あとは所謂ダンジョンの暴走状態になったりとか、他の魔物にダンジョンの管理権がいったりとかするはずです……! 私も死んだことないので分かりません!」
このラポムという少女は俺の聞いたことに対して、全て応えてくれるつもりのようだ。俺たちに敵対するつもりがないという意思の表れであろうか。
「なるほど。……ダンジョンの消失って、中にいた人たちはどうなるんだ?」
「大体死にます! 一緒に破滅なのです。でも『勇者』の旦那さんなら多分、どうにでも出来ると思います!」
一緒に破滅って物騒だな……。一気に色々崩れて、壊れていくってことか?
それはそれで恐ろしいことだと思う。なんていうか、こういう不思議なダンジョンマスターという魔物に出会ったからこそ新しい知識が沢山入ってきて色々と質問をしてしまう。
「なんかこのまま色々質問し続けそうなんだが、まずそもそもなんでラポナは俺やネノのことを呼ぼうと思ったんだ?」
色々と聞きたいことは山ほどあるわけだが、それよりもまず確認をした方がいいことはなんで俺たちに来て欲しいといったかだ。
「ええっと……ちょっと言いにくいのですが」
背の低いラポナから上目遣いで見られるが、特に何も感じない。
こういう可愛い見た目をしていてもあくまで魔物だしな。
「簡潔に説明しろ」
「……このダンジョン、暴走しかけていまして。理由は私が悪いんですけど!」
叫ぶように言われた言葉に、正直どういうことなのか分からない。促すようにじっと見つめれば、ラポナが説明をし始める。
「ご存じの通り『魔王』が発生し、それに伴って私たち魔物は活性化していました。それはダンジョンマスターという私の種族も同様です。『魔王』が地上に現れている間は、私たちも稼ぎ時です」
「稼ぎ時?」
「ええっと、ダンジョンマスターはダンジョンに外から人を呼び、それで色んな行動をしてもらうことで力をもらうような種族です。それで来訪者たちから吸収した力で魔物とか、宝物とか配置して強化して成長させていく形です。『魔王』がいる間は、地上の人々も強い武器的なものを求めてきたりとか、実力強化のためにダンジョンにやってくる人は増えたりもします。そのために私は気合を入れて無理をしてでも人を呼ぶ仕組みを作ろうとしました。……でも『勇者』さんが私にとって想定外にもたった半年で『魔王』を倒してしまい……ひっ、そんな目で見ないでください! 『勇者』さんに文句なんてないです!」
ネノが半年で『魔王』を倒したことを非難しているのだろうか? とじっと見れば、睨まれていると思ったのかラポナは慌てた様子を見せる。
ダンジョンマスターという種族は、ダンジョンに外から人を呼び、強化していく種族のようだ。どういう仕組みかは全く分からないけれど。
それにしても目の前のラポナに関しては俺たちと敵対する気は本当になさそうだが、他のダンジョンマスターという魔物に関してはどうであるか分からないよな。少なくとも『魔王』がすぐに倒されたことで魔物の活性化も収まっている状態だし。
「それで……『魔王』が数年は存在する想定で進めていた結果、私の手に余るような方向に成長させてしまって……、暴走しかけているというか。私もこの街の人々を全滅させるのはわりに合わないので、どうにかしたいけれど出来なくて……。『勇者』さんと旦那さんに助けていただきたいなと! 代わりにダンジョン産の宝物とか、色々渡せるので、お願いできたらと! 他にも私が所蔵しているものでよければ色々渡します!」
ラポナは勢いよくそう言い切った。
「とりあえずネノとメルに相談してきてからでいいか?」
「もちろんです」
ラポナがそう言って頷いてくれたので、俺は一旦帰ることにした。