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到着 3

 商会にたどり着いたら、ネノが『勇者』であることもあって丁重にもてなしを受けた。大きな商会なのもあって俺とネノが結婚している情報も掴んでいるらしく、俺にも丁寧だったのが好印象だった。メルには生魚をプレゼントしていた。

「それで『勇者』ネノフィラー様と、その旦那様は何をお求めで?」

「土地を、借りたい。お店、する」

「このあたりで借りれそうな土地を探しているんです」

「お店ですか……。お店をやるにしても土地だけでいいのですかな? 店舗付きのものもございますが?」

「いらない。お店、自分で建てる」

 ネノがそう答えれば、商会のトップだという壮年の男性——コダと名乗った男は驚いた顔をした。

「家をご自身で?」

「ん、私とレオで」

「家は自分でどうにでもするのでなるべく広い土地が欲しいです。家を二軒分おけるような」

「二軒?」

「うん。家と店舗」

「……そうですか。少し色々と聞きたいものですが、詳しく聞くのはやめておきましょう。『勇者』様とは良い付き合いをしたいですからね。そうですね、それで二軒分おける土地ですか。お店をやるのでしたら人通りの良い場所の方が良いでしょう。でしたらこことここが候補でしょうか」

 コダさんがそう言って差し出した資料には、広々とした土地の情報が記載されていた。それに目を通す。片方は商店が立ち並ぶ大通りに位置する空き地。もう一つはメインストリートとは外れているけれど、冒険者ギルドや漁港の近くでそれらに所属する人々にとっていきやすい空き地。

 どっちも捨てがたい。

 どちらでも上手くやればどうにでもなる気がする。

「ネノはどっちがいい?」

「海、見たいから、こっち」

 俺はどちらも魅力的だと悩んでいたが、ネノは海に心が惹かれているらしい。俺としてもネノの願いは叶えたいので、即決で海が見える漁港の近くになった。

「貸出という形でよろしいですか?」

「大丈夫です」

「でしたら月に銀貨100枚いただきますがよろしいですか?」

「はい」

 そのくらいなら今までの蓄えとネノの『勇者』業の報酬も含めれば払う事は可能だ。ちなみにこの国では銅貨、銀貨、金貨、大金貨と別れている。銀貨が銅貨100枚分、金貨が銀貨100枚分、大金貨が金貨100枚分という計算になる。

 土地の借受契約を無事に終えたので、俺とネノはそのままコダさんにその土地まで案内してもらった。見事に何もない空き地である。

「よろしければ『勇者』様方、おすすめの宿もご案内しますが?」

「ああ、それは大丈夫です」

「うん。家、持ってる」

「はい?」

 コダさんが何が何だか分からないと言っている表情を浮かべているが、その間にさっさと家を出した。

「はい!?」

「家。私と、レオの愛の巣」

「此処で寝るから大丈夫です」

「……そ、それは《時空魔法》ですかな? 家を持ち運べるほど《時空魔法》を極めているのは流石『勇者』様の旦那様ですな。もし何か仕事にお困りな事がありましたら運搬の仕事など幾らでも紹介できますのでその時はよろしくお願いします」

 コダさんは何か言いたそうな顔をしていたが、結局それだけ言って優雅に一礼をして去って行った。家が突然現れたと少しだけ周りが騒がしかったので、俺とネノはそのまま家の中へと入った。

『ネノ様とレオ様さ、自重って言葉知ってる?』

「メル、何が言いたいんだ?」

『いやー、見事なまでにネノ様は『勇者』であることを隠さないし、レオ様は《時空魔法》を使えることも隠さないし。そうやって色々と目立つ真似してると大変そうなのに』

 メルがそんなことを言いながら俺とネノのすぐ隣を飛んでいる。

「隠す必要ある? 私、『勇者』。レオが《時空魔法》使える。それ事実。そもそも、メルいる時点で目立つ」

『そうだけどさー、色々狙われたりとかしそうじゃん。母様が言ってたよ。《時空魔法》使える人間って、同じ人間に道具のように使われたりもするって』

 メルは色々と心配しているようだ。

 確かに《時空魔法》は極めればとても使い勝手が良い魔法で、誰かを人質にとって《時空魔法》を使えるものを奴隷のようにこき使ったりする例は世の中には幾らでもあるらしい。流石に何度もそういう悪い事例が続いたから、互助組織のようなものが出来ているらしいと村長が言っていた。……俺とネノが《時空魔法》のレベル上げてたの知っていたからこそ、そういう組織があるんだとちゃんと教えてくれてたんだと思う。

「大丈夫。私はレオがそんな風になるの、許さない」

「うん。俺もネノが利用されたり、自分らしく生きられない事を許さない」

「だから、大丈夫だよ。メル。メルが利用されそうになっても、助ける」

「そもそも俺達がおとなしく利用されると思うのか?」

『……うん、絶対おとなしく利用されないね』

 俺とネノの言葉に、メルは何だか納得したように頷いていた。それにしても俺はメルの方が悪い人間にだまされたりするんじゃないかと心配だ。もしそんなことになったら助けるけどさ。


 結局その日は、明日からお店づくりを始めようという事になって眠りにつくのだった。



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