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街での宿経営と、ダンジョンの話 ③

 メルはその後も話したりない様子だったが、食堂を開ける時間が来たので一旦その話は終わった。

 その日も食堂は大忙しだった。次々と来る注文をさばいていき、大忙しだった。それが終わった後に、メルが美味しかったといった魔物の詳細を改めて聞いたのだが……何の魔物かはさっぱりわからなかった。

 ダンジョン内に普段生息している魔物だなのかどうなのかぐらいは把握しておけたらと思ったのだが……、メルにはそれらを説明するだけの語彙力がなかったようである。

 これあれだな、メルは異変を感じ取っても説明しきれない気がするから結局俺かネノで後から直接見には行かなきゃなりそう。まぁ、それならそれでいいか。

「メル、何かしら報告した方がいいと思えるようなものがあったらすぐに報告するようにな」

「うん!!」

「小さなことでももしかしたら何かしらダンジョンの異変を調べる手掛かりになるかもしれないから」

「うん!! あとダンジョンで見つけた人にも色々聞いてみる。僕だけじゃ分からない異変分かるかもだし」

 メルはそう言ってやる気満々であった。

 俺とネノも時間を見つけてまたダンジョンには潜るつもりだけど、メルほどは頻繁に今は潜るつもりはないからなぁ。

 それから数日間は空いている時間にメルがダンジョンへと潜って、俺とネノはどちらかというと宿経営の方へ力を入れていた。解決出来れば出来るほうがいいとは思っているけれど、それよりも宿の方が大事だしな。

 そういうわけでメルがダンジョンに向かっている間、俺とネノはそれぞれ作業を進めたり、のんびりとする。

「メル、異変探せるかな」

「どうだろう? 一生懸命探そうとはしているっぽいけど。しばらく待ってメルが探せなさそうだったら、俺たちで探索するか」

「ん。解決したら報酬もらえる」

「そうだな。こういうダンジョンのことを解決するとどのくらい報酬もらえるんだろうなぁ。お金は嬉しいけれど他の報酬は特に要らないよな」

「それはそう。あの領主なら、私たちが嫌がれば、そういうのは渡さないとは思う」

 貴族たちの目に留まるとそういう余計な報酬をもらうこともそれなりにあるのだ。貴族とかの位だったり、騎士としての地位だったり。

 そういうものを受け取ると色んな制約が出来てしまうので、そういうのは断る予定である。

 折角自由気ままに旅をしている状況なので、そういう枷は欲しくない。

「本当にダンジョンの暴走とか起きるのかな?」

「どうだろ? 本当に起きるなら大変」

「暴走するにしても被害は起きないようにはしておきたいよな。緊急事態の時は食糧を分けたりはするか」

「うん。そういうのはする」

 ダンジョンの暴走。

 それでどういったものが起こるのか俺には想像はつかないけれど、そういう状況だと切羽詰まっているだろうし、実際にそれが起きた時のためにも備えておかないと。

「でもダンジョンから魔物が溢れてくるとしても、それも倒したら素材があまり残らない感じかな」

「ダンジョンの中と外で何が変わるか、それは不明。どうせなら、素材残る方が嬉しい」

 ダンジョンの外に魔物が溢れる状況だと、素材はどうなるのだろうかと疑問である。ダンジョン内では色々とルールが異なるけれど、外にまで魔物が出てきたらそのルールが適用されるのか? それともされないからこそ、危険なのか。

 どうせ魔物を狩るなら素材が沢山取れた方がいいが、どうなのだろうと疑問である。

「ダンジョンの仕組みが謎だけど、どういうタイミングでそういう暴走がするのかも分からないよな」

「うん。解明されてないはず」

 この街はダンジョンが身近にある。だからこそダンジョンについては俺たち以上に街の住民たちは知っているはずだ。でもそういう住民たちでさえも――ダンジョンのことを正しく把握出来ているわけではないのだ。そう考えると本当にダンジョンって不思議だ。

 考えれば考えるほどダンジョンというものは不思議で、よく分からない点が多いのだ。

 ダンジョンから魔物が溢れていく、暴走の事象。

 それに関しても時々起こる危険なものという認識しか皆ないだろう。それが起これば大惨事なので備えはそれなりにしているだろうが、それでも基本的には自分たちが生きている間には起こらないことと思って過ごしているだろう。

「ダンジョンの暴走タイミングって、基本はダンジョンごとに違う感じだよな」

「うん。一斉にダンジョンが暴走するってのは聞いたことないかも。『魔王』が生きている時は、魔物も強化されるはずだけど」

 『魔王』が生きている間は、魔物は強化される。でもダンジョンの暴走というのは世界中で一律で起こるものではない。そうなるとやっぱり色々と不思議だなと改めて思ってならない。

 俺たちはそうやって、ダンジョンについての考察をしばらく話し続けるのであった。

 ――数日間、メルはダンジョンにこもっていても特に異変を見つけられていなかったので今日もどうせそうだろうと思っていた。

 だけど、その日は違った。

「レオ様、ネノ様!! 声かけられた! 一緒にダンジョン行こう!」

 などと、急にメルはそんなことを言い出した。




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