街での宿経営と、ダンジョンの話 ②
夕食時の食堂開店までの間は時間が空くので、やることもやったので俺とネノは今日はのんびり過ごすことにする。まぁ、やった方がいいことは他にもないわけじゃないけれど、常にせかせか動いて予定を詰めていても大変なので、たまにはのんびりする。
宿泊客は居るので呼び鈴などがなったら対応をしなければならないが、それ以外はゆっくりできる。
俺はのんびりと本を読むことにする。
《時空魔法》で幾らでも持ち運べるからと、読んでない本も突っ込んであるから。
今読んでいるのは、料理や食材に関するものである。ネノに美味しい料理を振る舞いたいと思っているし、俺もまだ食べたことのない料理は作って食べてみたいと思っているのだ。
ネノは俺が本を読んでいる間、魔法具の点検をしているようだ。家と宿で様々な魔法具を使っているので、不備が出ると困ってしまうから定期的に点検はしている。
俺が訪れたことのある場所というのはまだまだ少なくて、特定の場所でしか育たない作物の情報などを読むのは楽しい。あとはとある地域では毒だと思われているものが別の場所では当たり前のように食べられていたりなんてこともあるのだ。そういうのを知ると面白いよなと思う。
例えば雪の下でのみ育つ作物とか。寒い地域だとそういうものが育たないように思えるけれど、そういう地域でも育つものというのはある。地域によってどこでどういうものが育つかは違うものである。
そういう本当に寒い地域だと外に飲み物を置いているだけでも凍ったりするらしい。俺はそういうのはあんまり想像出来ないので、ちょっと気になる。自然に凍らせたものが名物になっていたりもするらしい。
あとはあれだな、俺たちは火山では宿経営をしたけれどもっと暑い地域だとまた違う景色が見えるだろうし。そもそも火山といっても一つ一つ違うだろうから。
それぞれで様々な景色が見れて、面白い魔物とかもいたりするんだろうな。
まだ見ぬ美味しそうな魔物が見つかればいいな。
あとは書物などには描かれていない、誰も知らないような魔物も世の中には生息していたりするだろう。そういう魔物に遭遇して、何かしら料理に出来れば楽しそうだし。
この宿の名物料理のようなものでも作れたら、宿にお客さんをもっと呼ぶためにもそういうのは作っていた方がきっといいだろう。
今は『勇者』であるネノが始めた宿だからといって騒ぎにはなっているけれど、最初に客が押し掛けるだけで満足する気は全くないのだ。
折角だからもっと手に入れるのが難しいもので、量産できそうなものを探すべきだよなぁ。
とはいえ幾ら珍しいとはいえ、高価すぎるものを出すのは問題だし。あれだな、誰も見つけていない食材で料理を作って、その食材が世界に広まって流通していくといいのかもしれない。そうなったらその食材の発祥地にはなるしなぁ。
この街を後にしたら、そういうまだ見ぬ食材を求めてぶらつくのもありかも。
書物に載っているようなものだと、基本的には皆知っているものばかりかなぁ。そうなるといっそのこと、そういう食材なんて全くなさそうな場所に探索に行ってみるとかもありか?
そんなことを考えながら俺は本を読みふけっていた。
読書を終えた後は宿泊客たちへおやつを作った。多めに作成して、残りは俺とネノと、メルで食べることにする。卵を使った冷たいおやつ。それを宿泊客たちは美味しそうに食べていた。
毎日、おやつの種類も違うものにしている。毎日同じものだと幾ら美味しくても飽きるしな。少なくとも俺はそうだから、そのあたりのことは考えて作っている。
そうやってのんびり過ごしていると時間は過ぎていく。
「ただいまー!!」
夕食時の食堂開店の前、ギリギリの時間にメルは戻ってきた。
十分に楽しんできたのか、嬉しそうににこにこしている。
俺の渡した《アイテムボックス》の中に少ないが、落ちた素材は収納してきたようである。
「おかえり、メル。どうだった? 何か異変でもあったか?」
「んー。僕は今の所、分からなかったかも! でも本当になんか異変は起きている風みたいだよ。冒険者になったばかりの子たちはダンジョンに入らない方がいいって帰されてたもん」
「へぇ。危険だからか?」
「多分。僕は顔パスで入れたんだけど、それで文句言われちゃった。街に来たばかりで僕のこと知らなかったみたい」
人の姿をしたメルはただの子供にしか見えないので、それで文句を言ってきたのだろう。
自分たちは入れないのになぜメルは入れるかと、そんな感じなのだろうなと想像が出来る。
「僕がここの従業員だって知ったら、一緒に行きたいとか言われた! でもそんなの面倒だから断ったよ。それでね、ダンジョンの中にはいろんな魔物が居たからバクバク食べた!! 美味しいのいたんだよね。僕が食べたことないものだった!!」
今回のダンジョン探索でメルは美味しい魔物を見つけたらしく嬉しそうににこにことその話を語っていた。
まぁ、普通のダンジョン探索だったみたいだ。メルからしてみれば少しの異変ぐらいは異変ではないのだろう。