初めての貴族のパーティー ②
そのリュアジーンの街から少し離れた街。そこにリュアジーンを治める貴族は住んでいる。
いくつかの街を治める貴族家の屋敷というだけあって、目の前にある建物は大きい。俺はこういういかにもな貴族の屋敷に足を踏み入れたことはないので不思議な気持ちになる。
「大きいな」
「そう?」
「うん。お城とかだとこの何倍も大きい?」
「そう。セゴレーヌ姫たちの住んでる城も、魔王城も大きかった。あと他の国の城も」
半年間でネノは様々な場所へと赴いたので、お城もいくつか見てきたのだろう。王族の住まう城も、貴族たちの住まう屋敷も俺にとっては訪れたことのない場所である。そもそも入る機会もないしな。
だから少しワクワクした気持ちにはなっている。
周りには俺たちと同じくパーティーに招待された客たちの姿が見られる。彼らは俺たちのことを注目している。
「レオ、メル、行こう」
ネノにそう言って声をかけられ、手を繋いで正門から中へと入る。警備の騎士はネノの顔を知っているからか、そのまま特に確認もなしに中へと入れられた。
ネノが『勇者』と呼ばれる存在だから大丈夫と思っているのかもしれないが、警戒心が低いことに驚く。ネノは貴族に対して反発しているわけでもないが、それでももう少し警備はきちんとした方がいいのでは? と思う。
屋敷で働く使用人に案内されて、会場へと入る。
貴族の屋敷にはパーティーを行うためのホールが常備されているのかもしれない。俺にはよく分からないけれど、貴族はパーティーを沢山しているイメージがある。
広々としたホールには既に招待客たちの姿が多くある。そして彼らはネノの存在に気付くと、ざわめきだす。
「『勇者』様だ」
「パーティーにあまり参加されないはずだが……」
ざわざわと、『勇者』であるネノのことを周りは話している。
俺とメルに対する視線は少な目だ。とはいえ、注目は浴びているけれど。
「レオ様、ネノ様。美味しそうな料理、沢山だから食べてきていい?」
メルが目をキラキラさせて机の上に並べられた料理を見ていう。
今回のパーティーは立食式のもので、それぞれのテーブルに沢山の料理が並べられている。見た目も華やかなものが多く、見ているだけで楽しい気持ちになる。
でもこれだけ素晴らしい料理の数々に招待客たちは全然目もくれない。こういう料理が並んでいるのは彼らにとって当たり前なのだろうか。
「俺も食べようかな。あとメルは行儀よくするようにな」
「私も食べる」
俺とネノもメルと一緒に料理を食べることにする。
メルは皿の上に次々と料理を乗せている。見た目などお構いなしにどんどん乗せていて、メルらしいなと思う。
俺は小さく切り分けられたステーキを食べている。柔らかくて美味しい。きっと良い魔物のお肉を使っているのだろうなと思う。濃い旨味のソースも美味しい。
「レオ、これ、美味しい」
隣に立つネノは山菜料理を食べていた。そしてフォークで刺すと、「あーん」と俺の口元に差し出してくる。
パクリとそのまま口にする。
「うん、美味しい」
俺がそう口にすれば、ネノも小さく笑う。
ネノはこういう貴族たちのパーティーでも、いつも通りの自然体だ。どこにいても、どんな場面でもネノという存在は変わらないのだ。
俺は初めての貴族のパーティーで落ち着かない部分もあるけれど、こういうネノを見ているとそういう気持ちも吹っ飛ぶ。
ネノには視線だけ向けられているけれど、話しかけてくる人は今の所いない。
ネノに話しかけることに遠慮しているのかもしれない。でも何かしらのきっかけがあれば、話かけてくる人は山のように来そうだ。
一応、参加者たちの情報は目を通しているけれど、なんか似たような髪型や衣装の人が多くて分かりにくい。あれかなぁ、流行のものを皆身に付けるから差別化が難しいとかそういう感じなのだろうか?
貴族ってそういう流行も追わないといけないのは大変そうだなと思う。
そんなことを思いながら視線をメルの方に向けると、驚くほどの勢いでぱくぱくと料理を食べていた。流石に全部食べつくすような真似はしていないけれど、本当に色んなテーブルから様々な料理を取って食べているようである。勢いよく食事をしているメルに話しかけようとしている人たちの姿も見える。結局、話しかけられてないみたいだけど。
「レオ様、これ見て。面白い色の食べ物あった!!」
そして皿いっぱいに料理を持って、メルは俺たちのもとへと戻ってくる。メルが指をさしている料理は、時間経過によって色が変わっていく不思議な食べ物である。見た感じ、魚のすり身とかに見えるけど。なんで色が変わるのだろう? そういう特別な食材でも使っているのだろうか。
興味津々でその料理を見ていると、俺たちの元へと近づいてくる人影があった。
「『勇者』様、そして『勇者』の付き添い様方、この度は我が家のパーティーに参加してくださりありがとうございます」
そう言ってにこやかに笑うのは、茶色の髪の壮年の男性である。




