初めての貴族のパーティー ①
「レオ、かっこいい」
嬉しそうに小さく笑ったネノが目の前にいる。
今日はお呼ばれしたパーティーの当日である。噂が意図的に流されている可能性も高いのでちょっとした面倒事は起こるかもしれないが、ネノと一緒に貴族主催のパーティーに出ることは初めてなので楽しみの方が大きい。
というかネノの機嫌を損ねたいわけではないはずなので、最悪の事態にはならないだろうけれどさ。
「ネノも凄く可愛い。抱きしめたいけれど、ドレスがぐしゃってなるかな」
正直、ドレス姿のネノは滅茶苦茶可愛い。
それも俺の選んだ衣装やアクセサリーを身に付けてくれていて、普段のネノももちろん可愛いけれど、いつもと違う恰好のネノにはときめく。
抱きしめたいなと思ったけれど、あんまり強く抱きしめると駄目かななどと思って躊躇する。俺もこういう衣装は初めて着るし、よれよれになるのもなぁと思う。
「大丈夫、ちょっとぐらいなら平気」
ネノはそう言いながら俺に近づいてくるとぎゅっと抱き着いてくる。可愛い。
抱きしめているとだけで幸せな気持ちになる。
「レオ様、ネノ様、またくっついているの? これからパーティーに行くんでしょ?」
メルは密着している俺とネノを見て、呆れた様子を見せている。
「だってくっつきたい」
本当にネノは可愛い。ネノってそこまで人とべたべたしたりしない。人と接することがそこまで好きではなくて、こんな風にくっつくのは俺だけである。そういうのも実感すると毎回、俺は嬉しい気持ちになる。
なんだかずっとくっついていたいようなそんな気持ちにさえなる。
でもそうこうしているうちに、迎えの馬車がやってきたらしい。
「レオ様、ネノ様、迎えきたよー! パーティー終わってからくっつくとかでいいじゃん。一旦、行こうよ!」
メルにそう言われて、俺とネノは体を離す。ネノは名残惜しそうにしていた。
「ネノ、後でまたくっつこう。あとパーティーの時に一緒に踊れるしな」
「ん」
ネノは俺の言葉に頷く。手を繋いでレアノシアの外に出る。そこには馬車が一台ある。こういう貴族用の馬車ってなんだか装飾が華やかだよなぁ。
御者の男性は俺とネノとメルの全員にきちんと挨拶をしてくれた。
ネノだけを特別視しているような人だと、俺とメルのことはどうでも良さげにしている人もいるからなぁ。
「おめかしして、レオと一緒に馬車、楽しい」
馬車で俺とネノは隣同士で座っている。手をつないだまま、パーティーのことを話す。
「そうだな。こうやってこういう恰好で馬車に乗ることは中々ないもんな。なんだかネノはお姫様みたいだ」
「それなら、レオ王子様」
「ははっ、俺は王子様なんて柄じゃないけど」
「私だけの王子様」
そんな可愛いことを言ってにっこりと笑う。
「ネノ、可愛い」
「ストップ! ネノ様は化粧しているんでしょ? キスとかしない方がいいんだよね? 目の前でちゅちゅっしないでよ!」
どうせここにはメルしかいないからとそのまま口づけしようとして、メルに止められる。
まぁ、確かにそれはそうか。
一旦、今回は我慢することにする。
「それより美味しいものがいっぱいあるって聞いたけど、どんなのがあるかな? 人間って食事に凄いお金かけたりするでしょ? 僕、そういう高い食材って知らないんだよなぁ」
メルはそういう貴族がよく食べているような高価な食材というのをそこまで詳しくは知らない。だからか楽しみで仕方がないようだ。
まぁ、俺も自分で珍しい魔物を狩ったりはするけれどそれ以外の高価な食材についてはそんなに知らないけどな。ネノは『勇者』として過ごしていた頃のパーティーでそういう料理を沢山食べていただろうけれど。
「ネノはお気に入りのパーティーの料理とかあるか?」
「すぐには思いつかないかも。私が好きなの、レオの料理」
貴族のパーティーで並べられている一流の料理人たちの手によってつくられた料理よりも、俺の料理の方が好きなどとそんな風にいってくれる。
ネノは嬉しいことを言ってくれるけれど、俺はもっと美味しい料理は作れるようになりたいなと思う。折角貴族のパーティーに参加するのだから、貴族家に仕えている料理人と話す機会があれば話してみたいかもしれない。
領主たちがネノに対してどういう風に会話を振ってくるかにもよるだろうけれどな。俺たちにとって望まないことしか言わないなら、さっさとパーティーから帰ることになるだろうから。
「パーティーの料理で気に入ったのあったら教えて。俺も作れるように頑張るから」
「うん」
「デザートとかも貴族のパーティーならではのものとか出てきたりするのかな?」
「かも。レオ、楽しそう」
「ああ。ちょっとどういう料理出てくるかなって考えたら楽しみにはなってきた。でも値段が高すぎる食材だと流石に宿では出せないか」
「それはそう。それなら、私たちだけで楽しむ用の料理にすればいい」
パーティーで面倒なことも起こるかもしれないけれど、どういった料理が並んでいるのかと考えると俺は楽しみになっていた。
それからしばらく馬車に揺られて、会場へと到着する。