街で宿の開店と噂話と ④
おばあさんの宿を後にしてレアノシアへと戻っている最中に、吟遊詩人を見かけた。
「歴代最強の『勇者』であるネノフィラー様は、こうして『魔王』を無事に倒されました」
それはネノのことを謡うもの。たった半年で『魔王』を倒した『勇者』であるネノは、吟遊詩人たちにとってそれだけ題材になっている。
「無事に『魔王』を倒されたネノフィラー様は、次なる使命を成し遂げるために偽りの結婚を行い、宿を経営することになるのです」
……というかあれだなぁ。これ、結構意図的に俺とネノの関係が変な感じに流されている感じか。
こうやって街の中心部の広場でこれだけ情報が流されており、規制されていないということはその行動を咎める気がないということ。
平民である俺ではなく、他の王族貴族とネノを結婚させたい者もいるだろうし。
でもああいう吟遊詩人が領主の手のものだというのならば、ネノを怒らせるだけなのだけど。それとも領主自身の行動ではなく、周りが勝手に行動している? まぁ、それもありえるか。
そんなことを思いながら、俺はネノのことを題材にしていた吟遊詩人の語りが終わった後にその吟遊詩人に近づく。
「そういう風に流せって誰かに頼まれてます?」
担当直入に聞いてみたら、その人は警戒したような視線を俺に向けている。というより、何処か睨みつけるような様子である。おそらく善意で、良かれと思ってこういう風に嘘を流しているのだろうなとは思う。
その語っていることが真実だと思い込んでいるからこそ、実際の俺とネノの様子を見ても中々信じられないのかもしれない。
「『勇者』様を縛る外道の言葉など聞かない!」
こういう風に思い込んでいるのはある意味凄い。領主かそれとも他の貴族かにそういう風に言いくるめられてしまっているのだろう。
権力者の広めた言葉は誤解であれ、事実として広まることが多い。それはそれだけ彼らの影響力が強いから。
「何を聞かされているか知らないですけど、俺のネノは誰かに何かを強要されるのを大人しく受け入れるほど弱くないですよ。相手が誰であれ、嫌なことはとことん反発します。だからこれはネノの意思ですよ」
「そんなことを言って!! ネノフィラー様が使命のために結婚しなければならないと知って無理やり結婚を迫ったのだろう!」
「そもそも俺とネノが結婚したのは、ネノが『勇者』として覚醒する前ですからね。まず順序が違います。俺は『勇者』であるネノと結婚したのではなく、幼なじみの女の子であるネノと結婚したんですから」
そもそも偽装結婚しなければならない使命ってなんなんだろうか。彼らにとってみれば平民である俺が『勇者』であるネノと結婚していることが納得できなくてそういう理由付けをした形なのだろうか。
……まぁ、いいけど。
俺がそれだけ言っても納得はしていなさそうだった。けれど反論はしておいたので、一旦レアノシアへと戻ることにする。
本当に意図的に領主がこういう噂を流しているのなら、パーティーで一波乱は起きそうな予感。ネノのことを本気で怒らせるつもりなのだろうか?
そんなことを考えながら、戻ればご機嫌そうなメルがいる。
「あ、レオ様、おかえりー! いっぱい狩ってきたよ!」
思いっきり暴れることが出来てご機嫌なようだ。
「レオ、おかえり」
ネノも俺の帰宅に気づいて、声をかけてくる。
そしてじっと俺のことを見る。
「何か、嫌なことあった?」
すぐに俺の様子に気づいくネノは、本当に可愛い。
周りに対して関心が全くといっていいほどないのに、俺のことだけは特別に思っているネノ。
俺はそんなネノのことが本当に好きだと思う。
「領主か、他の貴族か分からないけれど、俺とネノのことを色々と意図的に広めているっぽい。だからパーティーに参加した時、そういう貴族接触してくるかも」
確証はないけれど、そう感じたことは伝えておく。
ネノが『勇者』だと露見してから基本的にはダンジョンにこもっていたので、どんなふうに情報が広まっているかなど把握出来ていなかった。
ダンジョンにこもっている間に煩わしいものが少し収まればいいと思っていたけれど、ああいう風に広められて入れば信じる人は信じるだろう。
「パーティー、終わったら街、出る?」
「反応次第で考えればいいとは思う。本当に話が通じなくて、どうしようもないならさっさと次の所行こう。このまま去ったら俺とネノの全く事実じゃない噂が残ったままになりそうだしなぁ」
噂を流している大元をどうにか出来るのならば、そうした方がいい。そういうことを意図的に流している存在がパーティーにいるのならば接触でもしてきそうだし。
それにこれから世界中を旅していくのだから、温厚なネノでも怒るのだというその事実は広まっていた方がいいと思うしな。
そう思ったので、ひとまずパーティーに参加してから街から去る時期を考えることにした。
――そして、あっという間にパーティーの日がやってくる。




