ツアーの開催とパーティーの準備 ⑯
「レオと一緒のダンス、楽しみ」
ネノは嬉しそうにそう告げる。
本当にネノは可愛い。俺も自然と笑みがこぼれる。
「『勇者』としてパーティーに参加していた時は踊っていたりしたのか?」
「ほとんど踊ってない。私、『勇者』だから許された」
きっとネノが参加した数少ないパーティーでは、ネノと踊りたがっていた人も多かったのだろうなと思う。平民出身であるネノがそれだけ自分の意思で決断を許されていたところを見るに、環境的には良かったんだろうなと思う。本当にネノにとって納得できない状況が『勇者』としての立場にあったならばネノはその状況をどうにかするためにどうにかしただろうし。
そのあたりはネノが話していたセゴレーヌ姫の影響もあるかもしれないけれど。
その点を考えると俺達はこの国の民で良かったと思う。『勇者』であるというその一点だけで、ネノが大変な目に遭うのは俺は嫌だから。
「セゴレーヌ姫の影響もあるか?」
「ん。そう。セゴレーヌ様、私が嫌がることやらなくていいって言ってた。それに、たった一人の存在に『魔王』を倒すことを任せなければならないなんて…って嘆いてた」
『勇者』とは『魔王』を倒す存在で、誰もがそれを当たり前だと思っている。でもそのお姫様はネノにそれを任せなければならないことを嘆いていたらしい。そういうお姫様もいるんだなと思った。
「ネノがお世話になったなら、いつかお礼は言いたいな」
「ん」
「他国に行く時には挨拶したいよな」
「する」
今はまだ国内をぶらついているだけだけど、他国にもネノと一緒に行きたい。メルの母親の居る場所も国内じゃないしなぁ。
その前には一度は挨拶はしてもいいかもしれない。
「国出る前に、村もよる」
「そうだな」
生まれ育った村にも、国外に出る場合は一度寄ってはおきたい。村を出る時に商売をすると言っていた商会もあったし、村も『勇者』であるネノの出身地だからと色々と変わっているかもしれない。
最もまだまだ国外に出るとかは先のことだけど、生まれ育った村がそうやって変化するのもたまに訪れると楽しそうだと思う。
そんな風に会話を交わしながら、衣装のリストを見ていたら素敵なドレスを見かけた。中々の値段がするけれど、ネノが着たら可愛いだろうなと思った。
それをじっと見ていればネノには俺がそれを着てほしいと思っていることがすぐに分かったらしい。
「レオ、これ、パーティーで私着る」
「ネノにはバレバレだな、俺」
「うん。私、レオのこと分かる。レオに可愛い、言ってもらう」
「そんなことを言っているネノがもう可愛いよ」
俺がそう言ったら、ネノが笑う。本当に可愛い。俺の奥さん、可愛すぎない? ネノの可愛さが留まることを知らなさ過ぎて、俺は本当に幸せ者だと思う。
「レオはね、これ」
「同じ色か」
「うん。揃える。私とレオ、仲良し、見せつける」
ネノがそんなことを言う。
ちなみに俺が選んだのは、紺色のドレスだった。俺も同じ色の衣装を着ることにする。でも俺の衣装はネノほど高価じゃなくていいよななどと思ったけれどネノから「レオの衣装、お金かける」と言われたので結構な値段にはなった。
パーティーで着ないものも色々と買い込むことにしたので、結構な値段だ。あとはパーティーで着る衣装に合う装飾品も選ぶ。
ネノ的には俺が選んだものならどれでもいいらしい。それでネノが嫌な思いをするのは嫌なので、ちゃんと考えて選びはした。最も『勇者』であるネノの着ているものに文句を言う人はいないだろうと思うけれど。
「メル用の衣装は、レオの衣装の色違いにする」
多分、ネノは俺とネノだけ同じ色がいいけれど、メルを仲間外れにはしたくないなと思ったのだろうと思う。メルがこの衣装を着たら、周りから凄く注目を浴びそうだ。メルは見た目がいいからな。
俺はあんまり目立つ行動はしないようにしようと思っているし、メルにも大人しくするように言っておくつもりだけどそもそもの話、『勇者』であるネノと一緒に入場するなら目立つなというのが無理な話か。
ネノは俺の元へ帰ってきてから一度もパーティーに参加していなかったわけで、そのネノが久しぶりにパーティーに参加するわけだから騒ぎにはなるのかな。どういう貴族がパーティーにいるかとかも俺、全然把握していないな。
「ネノ、参加者にどういう人がいるかとかって把握している?」
「全然。そんな情報なくても問題ない」
ネノはそう言っていたけれど、一応主催者である領主一家に関してはちゃんと情報を覚えておくことにする。挨拶はした方がいいだろうし。俺やネノはこの街に定住するわけではないけれど、俺は『勇者』なわけではなく、そのあたりの礼儀はちゃんとしておいた方がいい。
しかし王族や貴族ってこういうパーティーに参加している面々の顔と名前を全員一致させているのだろうか? それはそれで凄いことだよな。特に王族貴族だと覚えにくくて長い名前の人もいるし……。テディもそういうのはちゃんとしているんだろうか? うん、凄いなと思った。