到着 1
村を出てから、海の見える街を目指して、俺とネノとメルは進んで行った。
これといって誰と会う事もなく、順調に足を進めていった。ネノといつも通りの行動をしていれば、メルが時々、『破廉恥っ!』とか怒っていたけれどまぁ、それは放置していた。
それから数日ほど足を進めれば、村の者達が言っていた海のある街にたどり着いた。
潮風の匂いが、鼻につく。
生まれ育った村は山が近くにあって、海なんて近くにはなかった。俺自身、海を見るのは初めてだというのもあって、街の中に入るのに心を躍らせてしまった。
街の中に入るには検問があったけれども、ネノが『勇者』としての肩書を持っているのもあって特に難しい手続きをする事なしに中に入る事が出来た。『勇者』というネームバリューは改めて凄いと思った。
まぁ、ネノの事を知っていた門番が「『勇者』様だ」と声をあげそうになったのには、ネノが慌てて止めていた。ネノは別に『勇者』である事を隠しているわけではないが、一々『勇者』だと騒がれるのは面倒だと思ったようだ。
『勇者』だと騒がれなくても「あれは『勇者』様ではないか……」と周りがちらちら目を向けてきていたりしていたけれど。
「ネノ、俺、ひとまず海を見たいんだけど」
「レオ、目が輝いている。可愛い」
「……そりゃあ、俺は海を見るの初めてだから」
可愛い、とか言われてちょっと微妙な気持ちになった。ネノが楽しそうなのは何よりだけど、男だからそんな風に言われてもちょっとな。
「私も……レオと、海来れるの嬉しい。『勇者』として、海は見たけど……。やっぱり、レオ、一緒がいい」
「ネノのが絶対可愛いと思う」
可愛い事を言うネノに、思わず口からそんな言葉が漏れる。
ネノは、いつも可愛い言葉を俺に向けてくれる。こういう俺の事を好きだと前面に出してくれるネノを見ると、俺も改めてネノの事が好きだという気持ちになってならない。
あまり表情の動かないネノ。親しい人達の前ではそこまで口を開かないネノ。だけど、俺の前では表情を変えて、俺の前では沢山話す。俺の前でだけそうなのだ。そう思うと、余計に俺のネノは可愛いと感じる。
ネノの手を引いて、海の方へと近づく。
上から見下ろした海は、広大だった。
何処までも広がっている透き通るような青。その先は見えない。こんなに大きな水の塊を見るのは初めてで、何だか少しだけ感動にも似た思いを感じる。
この海の先には、他の大陸が広がっているらしいが、海を見たのもはじめてな俺には想像さえも出来ない。
小さな村でずっと育っていた俺にとって、海という大いなる自然は衝撃的なものである。
いつか、この先にも行きたいなとそういう思いも湧いてくる。
「レオ、下、降りよう」
「ああ」
海岸の方へとネノと一緒に降りる。メルもその後ろからついてくる。
『海って、大きいね!! 海、久しぶりに見たよ』
「メルは、海、きてたの?」
正直、メルってずっと村の側の山に住んでいたイメージだったから海の側にいるイメージは一切なかった。ネノもそんなことを思っていたメルに問いかける。
『ふふん。僕は独り立ちするまでは母様と一緒に色々な場所にいってたからね! そう考えると、僕って、レオ様やネノ様よりもずっと、いろんな場所行っているんだからね!!』
何だか偉そうに言われた。何で、色々な所に行っているというだけでこれだけ得意げなのか謎だけれど、メルは嬉しそうに声をあげている。まぁ、メルもドラゴンだし俺達よりは長生きしているからな。
『ねーねー。レオ様、海水っておいしんだよ、飲んでみて!!』
「いや、普通に塩含まれているからしょっぱいだけだろ」
『むー、知っているのか。残念。おいしいっていって、飲んでもらって、うえってなってもらおうかと思ったのに! 僕なんて母様に美味しいって言われて思いっきり飲んじゃって、うえええってなったのに!!』
そんなことをだまそうとするなよと思いながらも、メルの話を聞く。
自分が海水をはじめて飲んで大変だったから、俺にも同じ気持ちを味わわせようとしたとか子供か、と思った。最もメルは俺達よりは長生きしているけれどもドラゴンとしてはまだ子供のはずだから子供なのは間違っていないだろうけれども。
「メル……。レオに、自分が嫌だった気持ち、やらせようとか、駄目。そんなやらせるなら叱る」
『はっ、ご、ごめんなさい。ネノ様!! やらないから叱るのはやめて!!』
「うん。いい子」
素直に謝罪を口にしたメルの頭をネノはぐりぐりと撫でまわした。メルはされるがままである。
その後は、靴を脱いでから海水の浅瀬に足を踏み入れた。初めて海に触れて、何だか俺は楽しかった。ネノもメルも楽しそうにしていた。
それからしばらく浜辺で遊んでから、俺達は浜辺を後にした。




