ツアーの開催とパーティーの準備 ⑫
昼ごはんづくり体験を終えた後は、また自由時間である。
魔物と戦うことについても聞いてくる人たちがそれなりにいた。先ほど俺が魔物を倒したのを見て興味を抱いたのだろうということが分かる。
ダンジョンで宿をやるなんてことが可能である時点で俺がそれだけ戦う力があることはそれなりに理解出来るものだと思う。しかしやっぱりネノの『勇者』というネームバリューの方が大きすぎる。『勇者』であるネノがいるから宿が出来るとしか思っていない人もいるのだと改めて分かる。
俺が簡単に魔物の対処を出来ることは不思議な気持ちになるようだ。
「俺はネノに追いつきたかったから、強くなろうと思ったんです。ネノがいなかったら、今の俺はいなかったと思います」
それは紛れもない本心だから、俺は聞かれたら答える。
恥ずかしがってそういう言葉を本人にも周りにも言えない人はいるらしいけれど、俺はそういうことを口にするのに恥ずかしさなどない。ツアーに参加している女性に「うちの旦那にも同じように言ってほしいわ。どうしたらいいですか?」と聞かれたが、そのあたりは本人次第なのでどうしようもないと思う。
俺はこういう性格だけど、人によってはそういうことを口にするのを嫌がるタイプもいるだろうし。俺は俺が当たり前に出来ていることだからといって誰かにそうするように強要しようとは思わない。まぁ、素直に言った方がいいとかアドバイスはするかもしれないけれど、そのぐらいである。
女性陣はやっぱり恋愛話が好きなようで、そういう話をよくしていた。
俺の所に今いる面子は女性のみなので余計にそういう話で盛り上がっているらしい。それに今は普段なら足を踏み入れることのないダンジョンの中でツアーをしているという非日常な状況であることも相まって、少し口が軽くなっているようだ。俺は誰かにそういう話をするつもりはないけれど、流石に少し不用心ではないかと心配にはなる。言わない方が良さそうな自分の旦那の秘密的なものも言っているからなぁ。この女性の旦那さん、ネノの方についていっているはずだけど……。まさかぺらぺらそういうことを喋られているとは思っていない気がする。
あとは結構恋愛経験が豊富なようで、結婚するまでの間に何人と付き合ったとかそういう話もしていた。
俺とネノは互いに他の人と付き合ったことはない。出会った子供のころから俺はずっとネノのことが好きだったし、ネノはそもそも昔から他人に興味などなかった。俺のことをネノは好きになってくれたけれど、ネノは他の生物に対して興味を抱かないタイプだったのだ。
俺とネノにとって互いだけとしかそういう関係になったことがないのは当たり前だけど、一般的に考えれば珍しいことなのかもしれない。というか、俺たちの故郷がそれだけ田舎だったからというのもあるかもしれない。
都会だったら同年代に人が驚くほどに周りにいるはずだ。街や都市といった単位の場所だと、それだけ周りに人が沢山いて、恋をする機会も多かったのだろう。……そう考えると『勇者』として旅だったネノがそういう周りに惹かれないタイプで良かったと思う。惚れっぽいとか、他の人を知ったらそっちに惹かれてしまうとか、そういう人だったら大惨事になっていた気がする。
俺もネノと一緒に村を飛び出して、色んな人にあっているけれどネノが一番だなと思う。
「レオニードさんは、浮気とかされたらどうするの?」
「ネノは浮気しないですよ」
ネノの場合だと表裏がないタイプなので、別に好きな人が出来たらそういう関係になることなく、俺に話すと思う。人によってはずるずると振り切れなくて、両方と関係を持つなどもあるかもしれないが……ネノに限っていればそういうことはまずないだろう。
そもそもそんなことになれば、『勇者』としての力はおそらく失われる。『勇者』に力を与える女神ヒアネシア様はそういうことを許さない女神だから。
それにしても気分が良くなっているからそういうことを聞いてしまっているのだろうけれど、浮気と言う話題を楽しそうに話しているのはなんだかなぁと思う。……というか、自分の過去の浮気の話までしだしてしまった。……凄く気まずい気持ちになるからやめてほしい。
旦那さんは知っているのだろうか?
そんなことを考えながらも、下手に口出しするのもあれなので「そういうことはしない方がいいですよ」と言うだけに留めておいた。
そういう話を終えた後は、おやつ作りを行うことにした。
解体と食事作り体験だけでは時間があまるし、折角だから自分の食べるおやつも作った方が楽しいと思ったからである。
こういうダンジョンの中でそういう甘い物を食べれると思っていなかったらしく、残った皆は嬉しそうにしていた。
ネノとメルの方に行っているツアー客や手伝ってもらっている冒険者たちが戻ってきた時に振る舞えるように多めに作ることにする。これも建物の外で行った。皆、楽しそうにしていて俺は嬉しかった。




