ツアーの開催とパーティーの準備 ⑪
「ではまずは、こちらの魔物を――」
しばらくダンジョンやネノの話をした後、俺が何をしているかと言えば希望者たちと一緒に魔物の解体作業を進めている。
なるべく解体がしやすくて、見た目がそこまでぐろくないものを選んだ。
だっていきなりそういう魔物の死骸を前にしたら慣れていない人は卒倒してしまったりする可能性はあるから。とはいえ、そういう魔物を選んでいても顔色を悪くする人もいたけれど。
……なんていうか、俺やネノは田舎暮らしで自分で解体をすることも多かったけれど、街で暮らしている人だとそうではないんだろうなと思った。
これらの魔物の死骸に関してはダンジョン内で採れたものではない。
俺が《空間魔法》で保管していたものを取り出している。
ダンジョンの魔物はすぐ消えてしまうものだから、ゆっくり解体するのには向いてないし。
「こんな可愛い魔物を解体するのはちょっと怖い……」
解体しやすい魔物を選んだわけだけど、小柄な魔物の死骸を前にしてそういう人もいた。
俺とネノの故郷は本当に田舎で、自分たちで狩りから解体、調理まで全部行うような場所だった。けれど、この人たちにとってはそれが当たり前ではなく、こうやって躊躇してしまうものなのだなと思った。
ネノは戦うことにも慣れていたけれど、もしネノが都会育ちだったならばもっと『魔王』討伐も時間がかかったかもしれない。
「怖いならばやらなくても大丈夫ですよ」
別に強制しているわけでもないので、解体をすることに対して躊躇する人にはそう言った。
でも『勇者』であるネノが当たり前にやっていることなら自分も出来るようになりたいと無理して行う人もいた。顔色を悪くしながらも解体を進める様子に、そこまで無理してやることではないけれど……。それだけ俺のネノが憧れの存在で、ネノが出来ることを出来るようになりたいという感情が大きいのだろう。
初めての解体作業でも楽しんでやっている人もいた。そういう人の方が教えやすいなとは思った。
呑み込みが早いその女性は「私、解体業に転職しようかな」なんて口にしていた。今までやったことはなかったけれど、やってみると自分にあっていると感じたようだ。
一度も解体をしたことがない人ばかりだったので、その作業も普段よりは時間はかかった。
時間は多めにとっていたけれど、今後のツアーで同じことを進めるならもう少し効率よく出来るように調整はしたいなと思う。
解体が終わった後は、調理に取り掛かる。ここからは解体に参加していなかった客たちも参加する。
解体後の食材に関しては街の者たちも見慣れているのか、忌避感はないらしい。
こういう外で料理をすることを彼らは全くやったことがないようで、ダンジョン内で料理をするという特別な状況を楽しんでくれているらしい。
商人や冒険者、それに旅人といったそういう人たちはともかく大きな街で生まれ育ち、他の街に行く必要もない人たちはそういう経験などないのが当たり前なのだ。まぁ、旅慣れしていない人間がいきなり外に旅に出ればすぐに命を落としてしまうものだ。それだけ魔物や盗賊と言った危険が溢れているから。ダンジョンに関してもそうで、冒険者を夢見てダンジョンに足を踏み入れて亡くなる人の数は多いらしい。
今回、ツアーに参加してくれている人たちはダンジョンに訪れたことなんて一度もない人ばかりなので余計に非現実的な状況だからと楽しんでくれているのだろうと思う。
一緒に作る料理に関しては簡単なものである。折角なので、自分で火を熾してもらった。一瞬で魔法や魔法具で火をつけることも出来るけれど、もっと別の方法でやってもらった。
とある魔物の解体した部位。それは水をつけてしばらく経つと着火するといったものがある。自分の魔法で火を熾せない人や魔法具を買うお金がない人がよく使っている火をつける方法である。それを経験してもらったわけだけど、そういう旅人ならば知っているような知識も皆知らなかったようで楽しそうにしていた。
その火でご飯を炊いてもらい、先ほど解体してもらった食材を炒めてもらう。調味料を入れて炒めたそれらをご飯の上に乗せて食べる簡単な料理。
だけどそれを食べた人たちは皆、嬉しそうにしていて俺も嬉しくなった。
米に焼いたものを乗せて食べるのも美味しいんだよなぁ。何をかけて食べても美味しいし、折角だからと昼食はそれにしたのだ。
お米よりもパンを食べる人たちの方が多いから、新鮮な気分にもなってもらえるかなと思っていたのもある。
俺とネノは商人から買い付けてお米もそれなりに食べるけれど、基本的に小麦で作ったパンの方を主食にしている人の方がこの街だと多いしな。
パンは自分でこねて焼いたことはあっても、お米を炊いたことのない人も多かったので楽しんでもらえたようで良かった。
周りに匂いが漏れないようにしていたけれど、一部食事に引き寄せられてやってきた魔物は俺がすぐに倒した。