ツアーの開催とパーティーの準備 ⑩
「いってきます」
「ああ。ネノ、気をつけて」
「うん」
翌日、まずはネノを送り出した。ネノの後ろにはぞろぞろと冒険者たちとツアー客たちがいる。
ツアー客たちに楽しんでもらうためにと気合を入れているネノは可愛い。お弁当も全員分作って持たせた。
で、メルに関してはギリギリまで寝ていたのでネノたちよりも出発が遅れている。まぁ、連れて行くのも男の子一人だけなので融通は利くけれど。
「ふはぁあ」
「メル、昨日、夜更かしでもしたのか?」
「うん……。どの魔物の元へ連れて行こうかなとか考えていたら遅く寝たの!」
「そうか。それだけ眠くても大丈夫か?」
「うん! 僕を甘く見ないでよ、レオ様。僕はちょっと眠かったとしてもこのダンジョンの魔物たちに負けるほど弱くないもん!!」
メルは俺の言葉に元気よくそう答えた。
「メル一人なら、ちょっと油断しても問題はないのは分かっているよ。でも今回は子供も連れて行くだろう? その子が死なないようにちゃんと出来るか? 冒険者たちが止めたらちゃんと止まるんだぞ?」
「レオ様は心配性だなぁ。僕、ちゃんとやるよ! 折角、僕のツアーを選んでくれたんだから思いっきり楽しめるようにする予定だよ?」
自信満々にメルがそう言い切るので、俺は安心する。メルは自分で言ったことはちゃんとやり切る性格をしているので、これだけ言っておけば問題はないだろう。
「それにしても僕のツアー、全然希望者居ないのどうしてんだろう? 増やすためにはどうしたらいいかなぁ?」
「何回もやって、評判を高めるとかが一番じゃないか?」
「むー、それもそうかぁ。ダンジョンって珍しい魔物が沢山いるから僕のツアーって凄く楽しいと思うんだけどなぁ」
「あとはまぁ、面倒なことになるかもしれないけれどメルのドラゴンの姿見せて宣伝するとか」
「僕のドラゴンの姿見せたら宣伝にはなるの?」
「なると思う。メルみたいなドラゴンは人にとっては珍しいはずだから。ただそういうことをしたら余計な連中も寄ってくるだろうけれど」
俺とネノにとってはメルは昔から馴染みのある存在だけれども、他の人たちからしてみればドラゴンというのは身近にいる存在では決してない。別にメルがドラゴンだということを隠しているわけではないけれど、人型のメルだけを知る人は本来の姿のメルを想像も出来ないだろう。
それは宣伝にはなりそうだけれど、そういうことをすればおそらく大事にはなるだろう。
「そっかぁ。とりあえず僕は今回のツアーを成功させて、もっと参加してもらえるようにする!」
「それがいいかもな。あとメル、見たことがない魔物を見かけたりしたらなるべく様子見するように。得体が知れないなら撤退した方がいい。メルなら倒せるだろうけれど、ダンジョン内だとどういう魔物が生息しているか分からないから」
「観察して問題なければ倒してもいいよね?」
「もちろん。でもどういう魔物がいるかダンジョン内は未知数だからな」
このダンジョンで宿を経営し始めてから、様々な魔物に遭遇している。今の所、その魔物たちの中で倒せないようなものはいなかった。驚くような能力を持ち合わせている魔物は時折見かけたりするけれど、その程度だ。だから基本的にはどんなダンジョンの魔物に遭遇しても問題はないとは思う。
ただダンジョンというのは、解明されていない部分の方がずっと多い場所である。
何事でも油断をしてしまえば、大変な事態になることもあるだろう。
「うん。僕もダンジョンについてはよく知らないんだよなぁ。母様に聞いたら分かるかもしれないけれど!」
メルの母親については俺とネノもなんとなくしか聞いたことはないけれど、結構長生きしているのだろうか? メルの母親にもそのうち会いに行こうとは思っているから、色んな話を聞きたいな。俺とネノが知らないような面白い場所について知っているかもしれないし。
そういう不思議な場所で宿が出来ればより一層楽しいことになりそうだしな。
しばらくメルと話をした後、ようやくメルは目がすっきりしてきたらしい。ネノよりも少し遅れての出発になったが、子供と冒険者たちを連れてメルは飛び出していく。
「じゃあ、レオ様、いってきまーす!!」
元気よく声をあげてメルが先頭になって進みだす。その後ろには子供と冒険者たちが続く。
メルたちは子供の歩幅に合わせて、少しゆっくり進んでいるようだ。あのペースだと多分、そこまで遠くまではいかないだろうな。普通の子供の体力ではダンジョン内を大きく移動するのは難しいし。
メルを送り出した後、俺は残ったツアー客たちの対応をする。
まだ朝早く時間があるので、基本的にはのんびり過ごしてもらっている。希望者にはダンジョン内のことや俺とネノの話をしたりする。なんというか、皆、俺とネノの話は結構聞きたいみたいだから。ダンジョン内で倒した何気ない魔物の話とかも、普段、ダンジョンには来ない彼らには面白い話のようだった。