ツアーの開催とパーティーの準備 ⑥
宿に到着したツアー客たちは移動で疲労しており、すぐに休む人たちがおおかった。普通に暮らしているとダンジョン内を歩き回るというだけでもそれだけ体力を奪われるのだろう。
休んでいる人たちはともかくとして、まだ起きているだけの元気があるツアー客にはお菓子を振る舞った。
ご飯は移動中に済ませたらしい。
メルに聞いたのだが、その場で魔物を狩って焼いただけのものでもツアー客たちにとっては新鮮で喜んでいたとのことだった。
「ちょっと魔物が見えただけで騒いでて大げさだなって思ったけれど、普通の人間って結構簡単に死ぬんだっけ」
「うん。だからメルはちゃんと気をつけて帰りも送り届けなきゃだぞ。というか、俺とネノも人間だから何かあれば死ぬ可能性あるからな」
「むー? レオ様とネノ様は人間でも特別だからそんなに死なないと思うけど」
「でも俺達はメルほど丈夫な体はしていないからな」
俺はメルに呆れながらそう答える。
メルは俺とネノを人間ではないみたいなそんな感覚で接してくるけれど、俺とネノが人間であることは変わらない。そりゃあ魔法が使えるから、ある程度何かがあってもどうにか対応をすることは出来るけれど、人間だから何かあれば死ぬ可能性はある。
もちろん、そういう悲しいことにならないようには気をつけてはいるけど。
「ねーねー、メル君、一緒に遊ぼう!」
「僕は今、レオ様と話してるのー! だから遊ばないよ!」
「えー」
メルは子供から誘われて、すげなく断っていた。今は子供たちと遊ぶ気分ではないみたいだ。
「メル君、あそぼうよー」
「遊ばない!」
「メル、遊ばなくてもいいけれどその子が迷子にならないようには見ててくれるか? 親御さんは移動で疲れているみたいだから」
「むー、じゃあ面倒見るよ。僕は年上だからね」
俺が頼んだら、メルは頷いた。メルが一緒にいてくれると分かったその男の子は嬉しそうに笑っている。
メルを慕っているその男の子は、メルの言うことをなんでも聞いている様子だった。よっぽどメルを慕っていることが分かって思わず笑ってしまった。
その様子を見ながら、冒険者たちもほほえましそうに見ている。
宿泊する部屋はツアー客でほぼ埋まっているので、冒険者たちは食堂にご飯を食べに来ている形である。ツアー客に振る舞っているお菓子は、彼らにも配った。
美味しそうに食べてもらえると嬉しい限りである。
「ツアー客の人、ダンジョン内を案内するの、明日?」
俺がお菓子を振る舞っていると、ネノがいつの間にか近くにきていた。
最初の予定だとついたその日に、色々詰め込んでもいいなとは思っていた。とはいえ、初めてのツアーなのでいざやってみると疲れている人の方がおおかったので予定を変更した。
休まずに起きているツアー客も、流石にダンジョン内を歩き回るだけの気力はなさそうなので翌日に回すことで問題ないと納得してもらえたので良かった。
次回以降のツアーの際はもっと今回の反省点をいかさなければならないなとまだ終わってもいないけれど思った。
「そうだな。明日だな。予定通りネノが案内するか?」
「うん。宿のことはレオに任せる。私が案内する。宿に残る人もいるかな?」
「どうだろうな。いるかもな。折角ここまで来たから大体はきそうだけど。ネノが連れて行く予定の場所で怖い場所もあるよな?」
「死霊系の魔物が出るところ? でもあそこの奴、そんな怖くない」
「いや、人によっては怖がりそう。だから一応、先にいっておいた方がいいかも」
「どこにいくか?」
「うん。言っておいた方が多分いい。それでこのエリアには行きたくないとかいう人もいるかもしれないから」
「そっか」
ネノはそういうダンジョン内にあるものを怖がったりはしない。自分の手で対応できることならば、冷静に顔色一つ変えずに対応するだろう。でもツアー客だとそういうのが苦手な人もいそうなので、もっと先に説明はちゃんとしていた方がいい気がする。
ダンジョン内のどこを見に行くかというのは、俺とネノで割と直前に決めた場所もあるので確認はとった方がいいだろう。
「これだけ見たくないとかいう人いたらどうしよ? メルに見ててもらう?」
「それでいいと思う。あとはツアー客を此処に連れてくるまでに手伝ってくれた冒険者たちに、一仕事頼むかだな」
「それでいいかも。報酬支払うから、ちゃんとやってって言えばやってくれそう」
「だよな」
ネノとそういう話をして、お菓子を食べていた冒険者の一部に声をかける。きちんと報酬を支払うことを言えば頷いてくれたので、お願いしておいた。ちなみにダミニッテさんは「報酬は要らないけれど手伝いたい」などと言っていたが、ネノに「報酬もらわない人には頼まない」と言われて、頷いていた。
疲労して休んでいるツアー客に関しては後で聞いておくとして、起きているツアー客には今の内から明日の予定を伝えておいた。やはりネノが連れて行こうとしていた一部の場所は人によっては怖いと思われる場所だったっぽい。事前に確認しておいてよかったかも。
あとメルが面倒を見ていた男の子は「メル君が行くなら、僕も行く!」と気合を入れていた。大丈夫だろうか? と少し不安にはなった。